第17話 ノロイノハコ壱

 新年を迎えて一か月が経った。やっと正月気分も抜け、今週の金曜日も明と久斗はシノノメ探偵社でインターンをしていた。とはいっても新年前後はバケモノ関係の事件は減るため、特にすることもなく事務所のテレビを見ていた。毎週金曜の音楽番組がテレビから流れている。ちょうど大人数の女性アイドルグループがパフォーマンスを始めた。

「SJKのニノミヤちゃん、かわいいよな」

 テレビを見ながら、明が呟く。

「ふぅ~ん、かわいいねぇ」

 明の発言に眉をくいっと上げて、久斗が低い声で言葉を返す。

「何だよ」

「なんでもないよ」

 久斗の態度が理解できず、明は首をひねる。その後もふたりはぼんやりテレビを見続けた。最近は金曜の夜は事務所で夕食を食べて、寮に帰ることが多くなった。今晩も音楽番組が終わったタイミングで作り置きされていたカレーを久斗があたためてくれた。音楽番組が終わると夜のニュースに変わる。あまり面白くはなかったが、食欲旺盛な高校生にとって、目の前のカレー以外に集中するべきものはなく、チャンネルはそのままになっていた。

『今月一日から、アイドルグループシュークリームブライトのメンバー宮田なるるさんが行方不明となっており、警察が捜索を行っています。先月20日にも女性アイドルグループのメンバーが行方不明になっており、警察は関連性を含めて捜索を行っています』

 聞こえてきたニュースに明がカレー皿から顔を上げる。

「最近多いな」

「なんだ、可愛いから気になるのか?」

「そうじゃないって。お前どうしたんだ」

 ニュースの内容よりも、様子のおかしい久斗に明は顔をしかめた。久斗は相変わらず済ました顔をして、じゃがいもを口に運んでいる。そこへ慌ただしく東雲がやってきた。いつもゆっくりまったり動く東雲の急いた様子に何かあったのかと、ふたりは顔を見合わせる。

「所長、何かあったんですか?」

 明が問うと、東雲がついたままのテレビ画面を指差した。

「アレ、呪いに使われている」

「え?」

 珍しく明と久斗の声が揃う。テレビはまだアイドル行方不明事件について、最近行方不明になった地下アイドルの少女たちの顔写真とともにああでもないこうでもないと話をしている。

「協会から召集がかかったから、しばらく事務所をあける。事務所を頼むぞ。基本は夜がやってくれると思うけど」

 それだけ伝えると、東雲は旅行鞄に必要なものをぽんぽん詰め込み、コートを手に再び外へと出かけて行った。

「まずいな」

 東雲が出ていったあとの事務所で、久斗がぽつりと言葉を漏らす。

「まずいって?」

「コッチの世界がアッチの世界に影響を及ぼしている。まあ、協会も有力者を集めているみたいだから、すぐに解決するだろうけどな」

 それだけ言うと、久斗は明が食べ終えたカレーの皿も預かり、給湯室のシンクへ運んで洗い出した。明が「自分の分は俺洗うって」と声をかけるが、久斗は「いいってべつに」とそのまま全部洗い終えてしまった。

これはまだ、平和な日の夜のことだ。ふたりはこのあと、自分たちも事件に関わることになるとは思ってもみなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る