第8話 みえるものまもるものつかうもの肆

転入初日の午前授業は全て普通科教室での授業で、移動教室などで困ることもなく、落ち着いて過ごすことができた。4限目が終わって、そういえば緊張で昼食のことを忘れいたと思い至る。食堂はあるのだろうかと、とりあえず鞄に放り込んできた財布を探す。

「田町、食堂行く?」

 鞄をがさごそとしていると、声をかけられた。朝のホームルームで自己紹介する前に大きな声であいさつを返してくれた山本智貴だ。ホームルームの後もすぐ明の席に飛んできてくれた。

「食堂あるのか?」

「あるある。めちゃデカい。伊沢も行こうぜ」

「行く行く。ちょっと待って」

 山本を先頭に、三人で連れだって食堂に向かう。光陰高校の食堂は、広く開放的で、明は高校一年生の夏にオープンキャンパスで訪れた大学の食堂を思い出した。食券を買うと自動で注文が厨房に通るらしく、完成したら番号で呼んでもらえるとのことだった。さらに、食堂にあるいくつかの電子パネルでは呼ばれた番号が掲示されて、聞き逃しても問題ないという親切設計に関心する。親子丼の食券を購入して、空いている席に座った。明が座ったのは、食堂の入り口がよく見える席だ。ぼんやりと眺めていると、久斗が食堂へ入ってきた。

「あ、久斗だ」

 明の呟きに、山本が反応した。

「え、田町、本宮知ってんの?」

「うん。え、あいつ有名人?」

「有名も有名よ」

 伊沢も会話に参加してきた。

「田町くん、一般校出身よね?」

「一般校?」

「あー、うちって特殊学校じゃんか。だから俺たちは能力持ってない人が行く学校を一般校って呼んでんだよね」

「じゃあ俺が今までいたのは一般校ってことか」

「そうそう。うち以外にもこういう学校あるらしいけど」

「話戻すわよ。で、田町くんは等級とか教えてもらった?」

「あー、そろばん二級とかそういうやつだよな」

「……? なんか違う気がするけど、教えてもらったんだね。私たちの普通科の生徒は、ほとんどみんな五級なんだよね。見えるだけとか憑依体質とかだから。でも、高等部では良くて四級とか。世の中の霊能力者は大体五級」

「あ、俺も五級って言われた」

 明が言うと、山本と伊沢も自分たちも五級だと告げた。

「でも、本宮は高2でもう三級認定されてるの。二年で三級はふたりしかいないから、そういう意味で有名人ってこと」

「……強いってこと?」

「ま、そーゆーことだ!」

「食券番号201番202番の方~」

「あ、呼ばれた」

 明と山本の食券番号が呼びかけられた。

「二人行ってきなよ。わたし席いるから」

 そのあとすぐ伊沢の番号も呼ばれ、三人で食堂メシを味わった。親子丼はだしが効いていておいしかった。

「なぁ、教えてほしんだけど、祓師科とか予言科とかって、何する科なんだ?」

 おおよそ三人とも食べ終えて、のんびり水を飲みながら、明は問いかける。

「学科ごとにかなりカリキュラム違うんだよね。私たちの普通科はほとんど一般校の普通科と同じカリキュラム。でも週に2回、自衛の授業があるの」

「じえいのじゅぎょう?」

「そう、田町くん光陰高校に来ることになったってことは、何か霊的なトラブルあったんだと思うけど、バケモノが見えると見えるからこそトラブルに巻き込まれやすいんだよね。やっぱりバケモノ的には見えるとこに寄って来るし」

 伊沢の話は、明が自宅で久斗を交えて両親とした話と重なる部分があった。やはり見えることはバケモノの「狙い」になりやすいらしい。

「だから、祓うほどの能力がなくても、最低限身を守れるような方法を学ぶの。あとそこの山本みたいな憑依体質の生徒は、憑依されても身体コントロールを取り戻す方法とか勉強するよね」

「そーそー、きついから嫌いだけど、やんないとホラー映画みたいになったらやだし」

 山本はポケットから取り出したチョコバーを貪りながら、器用に答える。

「それに対して祓師科の生徒は、バケモノを祓える生徒が所属してるんだよね。人数少ないけど。2年生15人くらいしかいないと思う。ほんと関わりないから、本宮みたいに目立つ生徒くらいしか知らないけど」

「祓師科はバケモノ退治の授業とかあるわけ?」

「ざっつらいと!」

 山本がもごもごさせながら頷く。

「生徒によって能力が違うから、やり方は違うらしいけど、基本の祓い方とかやってるんじゃないかな? 祓師科は授業の半分くらいそういう実習らしいよ」

「勉強しなくていいってことか?」

「うーん、まぁ……でも私は嫌だな~祓師って命懸けの仕事だし。祓師科の子たちは卒業したら大体、祓師事務所か政府の祓師抱えてる機関に就職するんだよね」

「じゃあ、式神科は?」

「式神科はほぼ祓師科と一緒」

 答える山本はまだ口がもごもごしている。

「そう、ほぼ一緒でバケモノ祓う祓師って仕事に就くゴールは一緒なんだけど、式神科の子たちは、なんていうか式神を使役できる特殊家系の出身なの」

「陰陽師的な?」

「それそれ。家系の特殊技能だから、別枠で学科作ってるみたい」

 霊能力というだけで、明からすれば特殊だが、霊能力の中でもさらに特殊なものがあるらしい。

「予言科も特殊技能系っていうか、そのまんまだよ。予言能力ってめっちゃ珍しい技能だし、扱い慎重にしないといけないから、学科分けてるの」

「慎重にって?」

「田町くん、自分の寿命知りたい?」

「え」

「自分の友だちの寿命知りたい?」

 唐突に何を言うのかと思ったが、伊沢の目は真剣だった。

「……知りたくないな」

「私の友だち予言科いるんだけど、人の寿命全部見えてるんだよね。精神的に強くないとやられちゃうし、相手にも影響大きいから、そういう勉強するんだって」

 伊沢と山本から、学校の話を一通り聞いて、やはり自分の世界とは遠く離れた場所に来たんだと強く感じた。しかし、でももう来てしまったからにはしょうがない。自分もこの世界の一員になるのだと思うと不思議な心地だ。

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