第4話
「アイラ、ホーキン奴隷商会を潰してきなさい。処理はいつも通りにしなさい」
ご主人様が仕事の命令を下した。
私のこの手の仕事は少ない。週に一度あれば多いくらいだ。私が殺すよう命令されているのは今のような悪人とご主人様の気に入らないごく一部の人間だけだし、毎日のように暗殺をしていると数年でエバンス辺境伯領から人が消える。
ホーキン奴隷商会は悪い噂の絶えない商会で、実際に一度見てみたが噂通り奴隷の扱いが酷いものだった。
悪人の暗殺は領内の平定が仕事である領主の役割だが、エバンス家ではご主人様が取り纏めている。
「分かりました」
メイン通りから外れた裏通りにある少し古びた店。酷くきつく、鼻の奥を刺すような臭いがする。
正門には門番が二人。武器はロングソード。鎧はなし。夜闇に紛れているとはいっても10メートルほどしか離れていない。それなのにこちらの気配を察知する気配はない。見掛け倒しだけで実力は皆無だろう。
風魔法でカマイタチを発生させ頸動脈を切る。血が噴き出しバタリと通れる。
周辺から気配が消えたことを確認すると侵入する。
商館に待機している下手人を一人づつ抹殺しながら進んでいると他の部屋よりも豪勢に装飾された扉を見つける。おそらくこの館の主人の部屋だろう。
扉を開き部屋の主に姿を見せる。
部屋の主は醜く太った男性で、ステーキを肴にグラスを傾けていた。私が部屋に入ると椅子から飛び上がる。
「な、何者だ!?」
本来ならこのようなクズに名乗る必要はないのだが、ご主人様の言いつけで名乗らなければいけない。
「御機嫌よう、ゴミクズ。私はご主人様の愛の奴隷、アイラと申します。今夜はご主人様の命令で殺しに参りました。さて、最後に言い残すことは?」
ホーキンもとい、クソオークは汚く唾を撒き散らし叫ぶ。
「巫山戯るな、だ、誰か」
静けさが部屋を支配する。部屋には誰も入ってくる様子はない。当然だ。ここに来るときに私が一人残さず殺してきたのだから。
「な、何故誰も来ないのだ。まさか、お前が」
腰を抜かしたクズが後ずさる。
「何も言い残すことは無いようですね。では、さようなら」
恐怖に顔を歪めるオークの首にナイフを刺す。一瞬の抵抗のうち息絶える。ナイフを抜き、汚い血を拭き取る。
部屋から鍵を回収し、地下へ移動する。
地下への階段へと近づくたびに臭いが増してくる。
地下には牢が並んでいる。牢の中には多くの女性が横たわっている。
彼女たちは私が見ていることすら気付かない。
牢の鍵を開けると中の女性たちが私を見た。
「あ、あの。あなたは?」
20手前に見える最年長の女性が代表して尋ねてくる。
女性の姿を見つめる。痩せ細っているが美人であることは分かる。服も薄着で、全体的に透けていて扇情的だ。もしかしたらあのクズオークの相手をさせられていたか、これから売りに出されるかのどちらかだったのかもしれない。
「私はご主人様の命令であなたたちを助けにきたアイラ。もう大丈夫だから、安心して」
「ありがとうございます」
私の言葉に女性は涙を流した。よく見ると、他の女性たちも涙を流している。
私は全ての牢の鍵を開け、彼女たちを解放する。
全員を集めた私は彼女たちに告げた。
「この中で身寄りの無い人はエバンス家が経営している孤児院であずかろうと思います。強制というわけでは無いけど、多分その方がいいと思う。身寄りのある人はその人のところに」
私の言葉に彼女たちにざわめきが生まれる。おそらくエバンス家に反応したのだろう。
彼女たちが落ち着くと代表者が縋るように言う。
「本当に、私たちはもう大丈夫なの? 痛い思いも、ひもじい思いもしなくて済むの?」
「はい。そのために私はきました」
彼女たちの枯れたと思っていた涙が再びこぼれ落ちた。中には膝をついている人もいる。
彼女たちが泣き止むまで待ち、館の外に出る。
20数人の女性を連れて孤児院に移動する。彼女達は全員孤児院に行くことに決めたようだ。
暗殺者の私とご主人様〜もっと虐めてくださいご主人様〜 冷水湖 @2236944
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