第2話

 どれだけ遅くに寝たとしてもご主人様が起きる前、毎朝決まった時間に起きる。

 日が昇る少し前、太陽の頭が水平線から出る前に目を覚ます。

 ご主人様が住んでいるこの屋敷で働いている他の使用人もこの時間に起きる。私が拾われた当時のご主人様付きのメイド長から指導されたので当然と言える。

 私の仕事は他の使用人たちとは違う。

 使用人たちが忙しなく家の朝の準備を進める中私は寝ているご主人様を見守る。このとき、ただただご主人様の美しい寝顔を見ているだけではない。魔法と暗殺の訓練を並列して行う。

 しばらくするとご主人様が目を覚ました。エバンス家の娘であるご主人様も、よほどのことがない限りどれだけ夜更かしをしても決まった時間に目を覚ます。

 目を覚ましたご主人様は無防備な胸をそらす。ぷるんとその豊満なバストがゆれ、私の視線が一瞬固定される。直ぐに目を逸らしたので寝ぼけ眼のご主人様にはバレていないはずだ。それにしても、あの胸は同じ女性から見ても反則だと思う。普通ならあれだけ大きければ肩が凝ってしまうが、ご主人様には関係がない。聖女と謳われるほどの回復魔法の名手であるご主人様には肩こりなど無縁だ。

 ご主人様がセイレーンよりも美しい声で私の名前を呼ぶ。

「アイラ」

 返事と同時にあらかじめ用意していた服を見せる。

「はい」

 ご主人様は、しばらく用意した服を凝視された後満足げに頷く。よかった。今日も合格をもらうことができた。

 合格点をもらえるようになったのは最近のことだ。最初のうちは服選びのセンスがなさすぎてよく罰を与えてもらった。3年かけてセンス無しから抜け出し、それから10年近くかけてようやく今のレベルに到達した。

 ベッドから降りたご主人様の体を拭く。一拭き一拭き丁寧に、シミひとつ無いキレイな肌を傷付けないよう気をつけて拭いていく。

 全身を拭き終えると服を着せる。

 白のワンピースドレスを身に纏ったご主人様は神秘的で美しい。ワンピースドレス単体だけでもご主人様は十分魅力的だが、ご主人様の魅力を最大限活かす小物も忘れず用意する。

 着替えを終えたご主人様は姿見で一度確認をして頷くと部屋を出ていく。

 部屋を出ると外で待機していたメイドに部屋の片付けを指示する。私はご主人様から離れることができないのでできない仕事なので少し羨ましく思う。ご主人様のそばから離れたいというわけではない。ご主人様の寝汗がたぷりと染み込んだシーツに顔を埋めてクンカクンカしたいだけ。

 食堂に着くとご主人様のご家族が既に席についていた。

 ご主人様は自分が最後であることを気にせず堂々と席に着く。ご家族の誰もそんなご主人様を咎めることはしない。ある意味末っ子で、唯一の娘であるご主人様がこの家で一番力を持っているから。

 ご主人様が席に着くと料理が並べられる。辺境伯家であるエバンス家の食事は朝食から豪勢だ。しかし、決して下品ではなく格式高い上品さが感じられる。私たち使用人の食事も今出されている朝食よりも質素だが、一般的な庶民の食事と比べるとかなり豪華だ。

 ご主人様が朝食を優雅に食べている間に席を外し、素早く朝食を射に放り込む。本来ならご主人様が寝ている間に朝食を済ませるべきなのだが、無防備なご主人様から離れることもご主人様の部屋で朝食を食べるわけにもいかないのでこの形にしている。食堂には護衛も居るのでギリギリ許容範囲だ。

 食事を済ませると定位置に戻る。私が食事をする時間を考慮してくださっているのでまだ半分ほど残っている。

 ご主人様はもう少しゆっくりと食べてもいいと言ってくださっているが、これは私が1秒でもご主人様の側に居たいというエゴで、我儘だ。

 ご主人様を見ていると時間が過ぎるのが早い。気づけばもう食べ終わる頃だ。

 今日もこの素晴らしい時間を与えてくれるご主人様に感謝し1日が始まった。

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