暗殺者の私とご主人様〜もっと虐めてくださいご主人様〜

冷水湖

第1話

 仕事を終え、一息つく。

 私の名前はアイラ。

 職業は暗殺者兼ご主人様の愛の奴隷。いや、愛の奴隷兼暗殺者が正しいかな。

 物心ついた頃に私はご主人様に拾われた。それまでどこで何をしていたかは覚えていないけど、両親がいた記憶もないからたぶん捨て子だと思う。

 ご主人様に拾われてからはご主人様専属の暗殺者として教育された。適性があったのか、今では暗殺者として私に並ぶものはいない。

 私のことを可哀想に思う人がいると思うが、私は私のことを可哀想と思ったことはない。むしろ、拾ってくれたご主人様に感謝している。あのままご主人様に拾われなかったら死んでいたか、スラムで慰み者にされていたに違いない。

 自慢ではないが、私の容姿はかなり優れている。夜色の肩にかかる艶のある髪、アメジストの澄んだ瞳、きめ細やかな白い肌、スラリと伸びた手足、くびれのある腰。唯一、胸だけは平均的だが、それが全体のバランスに合っている。

 しかし、ご主人様は私以上に美しい。美の女神ですら裸足で逃げ出す容姿に、全てを包み込む豊満な胸。それでいてウエストは細い。私以上の数値だが、胸の影響でそれ以上に細く見える。世界三大美女などと言われているが、比べることすら烏滸がましいほどにご主人様は圧倒的に美しい。


 仕事完了の報告をすると、ご主人様から叱責を受ける。

「遅い。ゴミ処理にどれだけ時間をかけているの」

 できる限り急いで始末したつもりだったが、まだまだご主人様に満足してもらえる仕事ができていないようだ。海よりも深く反省し、頭を下げる。

「申し訳ございません。次こそはご主人様の意に叶う仕事をして見せます」

「そう、せいぜい頑張りなさい。…… それはそうと、貴女にはまたお仕置きしなければいけないわね」

 心優しいご主人様は何度私が不甲斐ない結果を出しても処分せず励ましてくれる。本来ならお仕置きだけでは済まないのに。

「はい。不甲斐ない私にどうぞ罰を当てえてください」

「いいわ、着いてきなさい」

 ご主人様はデスクランプの紐を素早く三度引いた。本棚が移動し、隠し部屋への通路が現れる。

 先頭を歩くご主人様の一歩半右斜め後ろをついて行く。

 いつもの、ベッドと数々の器具だけが置かれた白い空間に入るとご主人様が振り返った。

「今日は貴女を鞭で叩くわ。準備をしなさい」

「分かりました」

 ご主人様の命令通り鞭を用意し、服を脱ぐ。シミひとつ無い肌を晒し、ベッドに横たわる。準備が完了した。

「準備ができました。いつでも始めてください」

「ええ、細かい調整は私がするから少しの間そのまま待機してなさい」

 そう言ったご主人様は私に目隠しをし、両手足を拘束し、少し歪な大の字にする。視覚を奪われて足の自由が効かなくなると、途端にその他のことが敏感になる。

 空を切る鞭の音、ご主人様の息使い ……私の心臓の音。視覚以外から感じることのできる感覚が数割ましで脳に伝わる。

 ……

 ……

 ……

 長い沈黙を鞭が空を切る音が破る。

 沈黙が破られた次の瞬間、肉を打つ激しい音と共に太ももに痛みが訪れる。

 少し痛いが、気持ちよさが勝る。鞭を使うようになった最初の頃はご主人様も私も不慣れで、ただただ痛いだけだったが、今では叩かれるたびに快感が増す。バラ鞭、特に6条鞭に分けられる初心者向けの鞭でも十分気持ち良いが、やはりずっしりと重いラバー鞭には及ばない。

 たっぷりと時間をかけて100回近く叩かれたところでご主人様の手が止まる。次に起こることを想像し、股間を濡らす。私は、虐められた後のあの時間が好きだ。ご主人様の優しさが、何も無い私の心を満たしてくれる。

 私の体にできた傷を舌で舐めながら、聖女と謳われるほどの得意の回復魔法でひとつづつ癒される。私は、ご主人様からもらうものならたとえどんなものでも喜んで受け取るのだが、傷を残すことだけはご主人様は許してくれない。一つくらい残してくれると嬉しいのに。

 ご主人様がひと舐めするごとに傷が消えて行くのが分かる。見えなくてもご主人様の温かさが伝わってくるのでよく分かる。

 ペロリ。お腹の傷を舐められる。足から始めた治癒も半分を過ぎた。下半身は私の体液とご主人様の唾液が混ざり合ってベトベトだ。おまけに体液の大洪水で、ピンッと伸びた足先までシーツが濡れていて冷たい。

 全ての傷を癒やし終えたご主人様は私の耳をひと舐めし囁いた。

「お仕置きされて感じる変態には罰が必要ね」

「はい」

 今日も睡眠時間が短くなる。

 熱を帯びた返事をすると目隠しを外される。

 眩しくて僅かに霞む視界でもご主人様の顔だけははっきりとわかる。

 少しずつご主人様のご尊顔が近づいてきてやがて私との距離がゼロになる。舌が絡みあい、とろけきっていたと思っていた顔がさらに緩む。ご主人様の唇が離れると口の端からたらりと唾液がこぼれ落ちた。

 ご主人様が次の仕置き道具を取りに離れる。夜はまだ始まったばかり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る