第16話 根塚:回想

 ボクは、鹿島たちにいじめられていた。

 鹿島はいつも猪崎、熊野、兎口とつるんでいた。そこに無理やりボクを引き入れて、連れ回された。鹿島たちは遊んでいるだけのつもりのようけど、実際はオモチャにされているだけ。都合のいいように使われているだけだった。


 夏も近づいてきたころ、鹿島たちは肝試しにハマっていた。霊が出るという噂を聞いては、踏み切りや廃墟などを巡っていた。そんなときはたいていボクが先頭に立たされるのだ。

 雨が続いたある時、次は山の祠に行こうという話になった。天気予報で雨があがる時を確認して、準備もそこそこに山に入る。途中までは自転車で、そこからは徒歩で登った。

携帯は持ってきていなかった。猪崎がGPSで居場所が家族にバレるのを恐れたからだ。なにかやらかしたときに、そこにいた証拠を残したくないという、姑息な思惑だ。


 雨が降った次の日だった。ボクらは噂の山を登った。悪い足元に文句を言いながら祠にたどり着いた。

 祠の小さな社には、ネズミをかたどった石が納められていた。熊野が持っていこうとして、兎口に止められていた。

洞窟の奥の方を見ていた鹿島がなにか見つけたみたいだ。

 それは穴だった。検索して調べた、お供え物を入れる穴かもしれない。

 猪崎が「誰か入ってみろよ」とか言ってるけど、当たり前だけど誰も入らない。

 交互に穴を覗き込んでみていた。ボクも覗いてみたけど、暗くて何も見えない。でも、少しだけ慣れてきた目を凝らしてみると、奥の方でなにかが動いた気がした。


「どこだよ」


 鹿島の声が真後ろからした瞬間。

 どんっと背中を突かれ、ボクは足を滑らせて穴に落ちた。

 暗闇の中、内臓が浮く感覚に耐えても、数秒と経たないうちに底に叩きつけられる。受け身をとることもできずに転がる。

 全身が痛い。特に左足に激痛。立ち上がることはおろか、身動きする事も出来ない。


「おいおい、大丈夫か?」


 猪崎のからかい口調の声が聞こえるけど、こっちはそれどころじゃない。


「無理! 足が痛くて動けない!」


 聞こえた声の高さから、手の届く距離じゃないのが分かってしまった。絶望的だ。

 上ではなにか言い争うような声が聞こえる。一回帰るとかなんとか。

 ふざけるな! 救急車でもレスキュー隊でもなんでもいいから早くどうにか助けてよ!


「根塚くん! 今日はもう暗くて危ないから、明日朝ロープとか持って助けに来るから! それまで待ってて!」


 兎口の声だ。


「そんな! 待って!」


 ボクの声が届かないわけもないはずだけど、それに応える声はなかった。

 おいおい、勘弁してよ。こんなところで明日まで? 無理に決まってるじゃん。

 でも今更いってもしょうがない。ほんの少しだけ差し込む明かりも、時とともになくなっていく。今のうちに少しでも周りを確認しないと。

 暗闇に慣れてきた目で見れば、教室くらいはありそうな広さだ。上からなにか落ちてきても危ないから、一旦奥に入ろう。そう思って床を確かめながら這うようにして進む。


 壁際の段になっているところに座って休むと、すぐ隣に水が湧き出していた。案外綺麗でそのまま飲んでも大丈夫そうなくらいだった。

 とりあえず手と、すり傷になって血が出ているところを洗った。一番痛い左足は、怖くてあまり触れないけど、多分足首の上辺りで折れてる。かなり大きく腫れていた。

 日も暮れて完全に夜になり、闇に視界が閉ざされる……かと思ったけど、少しくらいなら見えるものだ。

 それが逆に、蠢く影に気付かされる。

 それが毒蛇のような危険なものじゃない事を祈る。それくらいしか出来なかった。


 痛みと恐怖、そして疲労が重なり、いつの間にか気を失うように眠っていた。

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