第14話 坂木:川沿い
これがただのキャンプかなにかだったら最高なのに。
山の中の川沿いの道なき道を登って行く。川は今はそんなに大きな流れにはなってないけど、雨上がりは川幅も広がって、流れも急になるらしい。今日は歩ける幅が広いだけまだマシ。そう兎口が言ってた。
小さな滝のようになっているところをいくつも越えて、さらに山奥へ。普段歩き慣れない山道に、みんないつも以上に疲れている。山特有の青臭いような土臭いような臭いがムワッと立ち込めていて、息苦しい。その中でも中川さんなんて、大きなリュックを背負ってなお、しっかりした足取りで進んでいる。頼もしい。
兎口さんが先導していく。そろそろ着くような話だったけど。
「あ、あれです」
そう言って彼女が指さした先を見た。少し開けた場所に、洞窟……というか、大きめの窪みのようなものがあった。すぐ横に滝が流れていて、なかなか
洞窟の真ん中辺りに、祠がある。思ったより小さくて、胸の高さの台座に、小さな社が乗っている。格子状になった正面の扉の隙間から見える内部には、何も入っていない。
「この中に、ネズミの形の石があったのか?」
「はい。一番最初にみんなで来たときには。その時には、この奥の壁に大きな穴があったんです」
中川さんの問いかけに、兎口が答える。
祠や奥の壁をみんなで調べてみたけど、特に変わったところは見つからなかった。
「元々開いてた穴が、なにかの拍子に埋まったって感じでもないね」
「そんなの見たらわかるでしょ」
砂辺の言葉にはやたら冷たく返す。なんだろう。
「うーん……」
中川さんが、洞窟から外に出て辺りを見回している。
「どうしたんですか?」
「いや、どういう事だろうかと思ってさ」
足元を見て、石をひっくり返している。川の流れからは離れていても、意外と濡れている。そういえば、洞窟の中も地面はじっとりと濡れていたな。
「冷たっ!」
いきなり砂辺が叫んだ。振り返ると、後頭部を押えて上を見上げている。どうやら、上から落ちてきた水滴が直撃したみたいだ。
「……もしかして」
中川さんがなにかに気付いた。
少し道を戻って、離れて洞窟を……それから川を見て、反対側の方からさらに山の上まで眺めている。
「そういう事か!」
「なにか分かったんですか?」
「ほら、すぐ横の川と、洞窟の上、それと下の地面の状態。なにか気付かない?」
そう言われて周りと見比べてみる。うーん、山側から張り出した木や草が少なくて、洞窟がよくわかる。でもそれだけ。特別気になるような事は見つからない。
「今日は晴れて良かったね。雨だったらそうとう大変だったと思うよ」
中川さんが突然そんな事を言った。そういえば、今日は晴れてるから川幅が狭いとか兎口が言ってた。
もし雨が降ってたら……。
「川の水量が増えて……」
「そう、隣の滝が洞窟まで広がって、パッと見ここに洞窟があるなんて分からなくなるんじゃないかな」
「ってことは……!」
「雨で水量が増えた時はこの洞窟を見つけられず、もっと上流まで登る事になっただろうね」
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