第9話 砂辺:ファーストフード店

「で、俺に相談したいってのは、君かい?」


 中川さんが言う。

 あの後、僕らのクラスは午後の授業が無しになり、下校することになった。学校には救急車とパトカーが来て、大変な騒ぎになっている。


 先生には真っ直ぐ家に帰るようにって言われたけど、僕らはファーストフード店て集まっていた。

 給食の時の熊野のショックは大きく、正直帰って寝てしまいたいところだけど、いったい何が起きているのか分からないとそれはそれで気持ち悪い。

 兎口さんは、これまでの事を詳しく話した。中川さんはそれを、相槌を打ちながら聞いている。


 中川さんがどういう人かというと、僕の家の近所に住んでいるお兄さんだ。小さい頃から一緒に遊んでもらっていて、僕は兄ちゃん兄ちゃんと呼びながらいつも後ろについていっていた。今は大学生で、頼りになるお兄さんだ。


「うーん……」


 話を聞いて、中川さんは考えている。警察に届けようかとか、考えているのだろうか。普通に考えたら、まあそうなる。

 考えている中川さんに、坂木さんが袖をまくりながら言う。


「私も無関係じゃないんです。ほらこれ、見てください」


 腕を上げて、例の紫色に変色した傷痕を見せる。今ならわかる。これは、あのネズミに齧られたあとなんだ。


「どれ? 確かに打ち身で紫になってるけど」

「え? よく見てよ、これこれ!」


 僕は指差しながら言う。


「俺にはそんな、噛み跡みたいな傷痕には見えないんだよ。変色してるのはわかるんだけど」


 それを聞いて、兎口さんがハッとする。


「お母さん、うちのお母さんもそう言ってた」


 彼女は靴下をおろして見せる。そこにはガーゼを貼ったふくらはぎ。そのガーゼを外すと、五百円玉くらいありそうな、大きな傷痕があった。正直、かなり痛そうだ。


「痛くないの?」

「痒いけど、見た目ほどは痛くない」

「俺にはやっぱりアザに見えるな。痛そうだとは思うけど」


 中川さんは首をかしげる。


「で、それが呪いの証だ……と?」


 兎口さんが何度も頷く。


「最初に死んだ猪崎の体にもあったし、熊野も前の日から肩の辺りをずっと掻いてた。もしかしたら、次は……」


 兎口さんは、自分の体を抱きしめるようにして俯いている。もしそれが本当なら、坂木さんだって無関係じゃなくなる。


「呪いねぇ」

「ほら、分かったでしょ。こんな事、警察に言ったって信じてもらえない。信じてもらえたとしても、その時にはもう何人も死んだ後だよ」


 坂木さんが興奮気味に言う、僕は周りの目を気にして、少し声を落とすように注意する。彼女は手の平で軽く口元を隠すようにして、深呼吸した。


「まあそういうことで、何かアドバイスがあれば嬉しいだけど」


 僕がそう言うと、中川さんは頭を掻きながら答えた。


「じゃあとりあえず、話を聞きに行ってみますか」

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