第8話 新しい生活

退院予定日の翌日から1週間 いろいろな人が私の目の前に現れては消えていった。

最期は 裁判所で 裁判官から、私の主治医を保護者とすることについての 法律や制度に関する詳細な説明を受けることになった。


もし 私が保護者を変更したいと思った場合の手続きやら、虐待されていると感じたときの訴え方についてまでいろいろと。


もっとも 虐待の申し立てとその後の処遇については 私はすでに知っていた。

孤児院時代に調べたから。

そして申し立て案件を処理する児童相談所の裏の顔と現実の処遇については

そこで措置されたほかの少年少女達からの談話もすでに聞いていたので

まったく信頼する気にはなれないことも 私は具体的に裁判官に告げた。

だから 児童相談所でひどい扱い・不誠実な対応を受けたときの救済策を聞いたら

「その問題については これまで案件となったことがないので、今から検討会の立ち上げに向けて 私個人の課題としたい」と裁判官は言った。


そのあと 私を担当する「保護観察員」なる女性を紹介された。


なんでも 新たに私の保護者となった医師は独身男性であるので、

私が性的搾取に会っていないか毎月の面談により確認するための「保護観察員」がつくそうだ。


 はぇ? ザルなな制度だ。

 被害者救済制度もなく 襲われそうになった時に逃げ込む場所もなく

 やられちゃった後で報告を受けて 病院での診察の手配をするだけの「保護観察員」なんて何の役にもたたないのに。

 しかも 保護者と結託して 被害の訴えを「虚言症」と決めつけられることも珍しくないのに「保護観察員」なんていらんわ! と思ったが、あえてそれを口に出して 自分を不利な立場に追い込む必要はないので 黙っておいた。


 無力な者にとっては 口は禍の元。 口を閉じて目を働かせて隙を伺って逃げるのが唯一の身を守る手立て! これが私の人生15年で 嫌というほど身に染みて覚えさせられた もっとも無難な生き残る方法。


という もろもろの手続きを経て 私は 私の主治医だった 新たな保護者の家に住むことになった。

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