第2話 とんでもない噂

「いつも 物陰からひっそりとみている少年」と言えばロマンスめいているかもしれない。


しかし その実態はストーカー


但し その当時、「ストーカー」と言う言葉はまだなかった。

むしろ 「女の子は 思われてこそなんぼ。 そこまで思ってもらえるなんて素敵じゃない。 どうしてその思いを受け止めてあげないの?タカビーじゃない(あなたひどい女ね)」なんて言われる時代だった。


そんなのに 1日中付け回される日々


学園での授業は時間割にして6コマ、授業以外の時間も含めれば、在校時間は最低でも朝8時~夕方4時までは滞在しなくてはいけない。


授業時間は 1コマ50分。

登校から下校まで 授業以外の時間は 常に物陰から見張られているから、

在校8時間中5時間は 毎日 その男に見張られていることになる。


やがて クラスメートたちも 私を見張る男のことに気が付いて尋ねられた。

 しかじか赫々と説明すると 冒頭に「思われてこそ」のセリフを次々と返されてしまって 困った。


私は本が好きだ。

学園の図書室で 閉館6時までの2時間を読書して過ごしたい。


しかし 図書室に行くと手を伸ばせば届く距離デアをとを付けられ、本を読もうと椅子に座ると その真向かいに座り込まれるようになった。


なのに 向こうからは決して話しかけてこない。


なのに 周囲の人からは じろじろ見られる。

 でも 敬遠されているのか 誰も私には近づかない。

 助けをもとめて知り合いの所に 私が歩いて行くと、問題の男も私の後をついてくるから 知り合いは露骨に私を避ける。

 最初こそ 翌日 教室で 「あの子がいるのを見て気持ち悪くなって避けてごめんね」と謝られたが、その後は 私への謝罪もなく 私がクラスメートからはぶられる羽目に。


だから図書室の利用をあきらめた。

同じ理由で 部活もやめた。


HRの後は そそくさと女子寮に逃げ込むことにした。

さすがに 女子寮の中は 男子禁制だから


すると、奴は 毎日、寮の夕食時間を狙うようにして、女子寮の受付に行っては

私宛の手紙やら 贈り物などを残すようになった。


食事時間は 受付が空になるから。

受付の窓口に 私宛の手紙やら贈り物を置き去りにするのである。


私は 断固として受けとりを拒否した。

「言葉も交わしたことのない相手から 付きまとわれ 挙句に手紙や贈り物など贈られても受け取れません」と


寮母からは さんざん文句を言われた。

しかし 「子供の時から 知らない人からものを受け取ってはいけませんと親から言われてますので受け取れません」とがんばったら、寮母はため息をついて、

受付に人がいないときは 女子寮の鍵をかけて 受付にモノを置き去りにされないようにした。


すると 今度は 鍵のかかった寮の扉の前にモノが起きざれるようになった。



その結果 口さがない女子たちが、私のことを「プレゼントを窓から投げ捨てる女」「男に貢がせて 手紙だけポイ捨てする女」と言いふらすようになった。


あげくに 学年主任と生徒指導部長から呼び出され 一方的に叱責された。

 眼付きの悪いやせぎすの学年主任と脂ぎったいかつく柄の悪い生徒指導部長


 1時間以上も狭い部屋に閉じ込められて 二人から一方的に罵声を浴びせられた。


 そろそろ2時間になろうかというころに 隣の部屋でごそごそしていた教頭が入ってきて「なにごとか?」と二人の教師に問うた。


 そこに生じた一瞬の間を利用して、私は 静かに経緯を説明した。


入学した翌日から付きまとわれたこと。

余りにも不可解だったので 質問状を送ったら回答が来てその翌日からの出来事

ストーカー男のことだけでなく 寮母・クラスメート・寮内の顔見知りだが名前もわからない先輩たちがまき散らした噂の伝播の模様

 私が 状況説明した相手とそれに対する反応

 そして 今日 呼び出されてから 私が言葉を発する間もなく二人の教師からの大声での叱責と 机をたたいたり椅子を蹴ったりされて怖かったことなどを。


 途中から 隣の部屋でずっと様子をうかがっていた(物音でわかるのです そういうことは)学校長が入ってきて、私の経緯説明が終わると

「そうか 今日はもう帰りなさい」とだけ言った。


「しかし 今の状況では 私はどうしようもありません。

 眼があっただけで逃げ出す男に 付きまとわれ

 その結果 私はクラスメートと普通に会話はおろか 挨拶すらできなくなっています。

 私だって 男の子に付け回されている女の子が同じクラスにいたら

 いつとばっちりが来るか、巻き添えにされるかと怖いと思います。

 だから この学園に通うほかの女の子達の為にも あの男子が 私の後をつけたり、私を待ち伏せしたり、私の周りでうろうろすることを完全にやめさせてください。

 手紙や物品を 女子寮の前に放置されて、寮監も困っています。

 だから 手紙や物品を持ち込んだり置き去りにすることをやめさせてください。」


としっかりと校長の目を見て言った。


校長は じろっと3人の教師たちをみたあと、

「学校の運営について 生徒が口出しをすることではない」と言った。


「運営について口出しをする気は全くありません。

 ただ 私やクラスメートの安全についても心配りしていただけるようにお願いします」

そういって 一礼して 閉じ込められていた部屋から脱出した。


寮に戻ると すでに門限を過ぎていて、今度は寮監からにらみつけられたが

「学年主任と生徒指導部長から呼び出され、2時間叱責されたあと、教頭が来て状況説明をさせられ、そのあと入ってきた校長に 問題の男子の行動に 同じクラスの女子生徒も寮監も迷惑しているようなので どうか善処していただきたいとお願いしてきたのだ」と説明すると、ため息をついて ドアのかぎを開けてもらえた。


まったく ドアの小窓越しににらまれ、状況説明をして納得してもらえなかったら

今夜は 寮のドアの外でつまり屋外に夜明かしする所だったよ。


私が寮監にドア越しに説明している間、寮の2・3階の窓が次々とあき 聞き耳を立てる女性との姿が ほとんどの部屋の窓枠に並んでいた。





 

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