第4話生徒会長との交渉!
生徒会室の備品、椅子やら机やらは見事なまでに高級品ばかりだった。その方面にはあまり詳しくないらせんはともかく、それなりの審美眼と知識を持つ旋律には有名ブランドだらけだと気づいた。
生徒会は委員会連合よりも多くの学校の予算が流れるが、ここまで揃えられるとは考えづらかった。一体、どういうからくりだろう?
「適当に好きなところにかけて」
端的だが配慮のある言葉。大きな机の右側の椅子に、奥のほうにらせん、その隣に旋律が座る。奥の正面の椅子に会長である日暮が、らせんと向かい合う形で男子生徒が座った――と思ったらお茶を淹れに立ち上がった。
「まずは自己紹介でもする? ま、私のことは知っていると思うけど」
「そりゃあ、名前と顔は分かりますって」
らせんの言葉に笑顔で返して、日暮生徒会長は言う。
「それじゃ簡単に。私は
日暮の紹介で影野は「どうも、よろしくね」と愛想良く笑って、言われた通りにお茶を差し出した。先ほどの痴話喧嘩が嘘みたいだ。
改めて影野が座ると、らせんが「俺、嵐山らせん。そっち歌川旋律」と簡単に返した。
「はい、よろしくね。それで、何の用かな? まさか、私と戦いに来たわけじゃないよね?」
物騒な質問だが口調が柔らかだったので、らせんと旋律は冗談だと分かった。
旋律が「それこそまさかです」と否定した。
「今日、僕たちが来たのは――日暮生徒会長に風紀委員会との渡りをつけてもらおうと思いまして」
「ふうん。つまり和解したいんだ。風紀委員会……だけじゃなくて、委員会連合と」
あっさりと意図を見透かす日暮。
怯むことなく旋律は「ご明察です」と肯定した。
「ちょっとした諍いで、これからの学園生活を台無しにしたくないんですよ」
「風紀委員長を倒したこと……全然、ちょっとしてないけど」
「正当防衛ですよ。確かにらせんくんは入学式に遅刻しました。でも――それゆえに風紀委員会のやり方が真っ当ではないことは明らかです」
日暮は興味深そうに、太い眉を上げた。
「面白いね。言ってみなよ」
「らせんくんは入学式に遅刻した……だから『校則が書かれている生徒手帳を貰っていない』んですよ」
「…………」
「校則を知らない状態の新入生を、校則違反で罰するのは――道理に合っていないのではありませんか?」
自分で言っていて、旋律はこれが屁理屈だと思っていた。
筋が通っているようで通っていないような、あやふやな理論だ。
「うん。言っていることはわかるよ。だけどさ、新入生が入学式に遅刻するのは、どう考えても罰せられておかしくないよね?」
日暮生徒会長は何か期待しているようだった。
にやにやと旋律の言葉を待っている。
「そのとおりです。でも、風紀委員長が罰するのは筋違いですよ」
「根拠は?」
「入学式を進行していたのは――生徒会です。だとしたら罰するのは生徒会の役目だと思いませんか?」
らせんは横で聞いていて、口が上手いなと親友を評価した。
要は権限の行使の問題である。
この言説を傍から聞けば、生徒会が行なうべき案件を風紀委員会が奪い取ったと考えられる。
生徒会が風紀委員会に依頼したと、日暮が言えばそこで終わりであるが、生徒会長である彼女は口が裂けても言えないだろう。委員会連合は生徒会の下部組織ではなく、独立した機関だ。どうしても命じたなどと証言できない。
ならば依頼したと言う――それも問題だ。委員会連合とは敵対していないとはいえ、均衡状態なのは変わりない。権限の委譲を行なったと見なされれば、風紀委員会だけではなく、他の五つの委員会もその弱みに付け込んでくる。
だからここは、風紀委員会並びに風紀委員長の独断専行として処理するしかない。
旋律はそこまで分かったうえで、日暮生徒会長に自分たちと風紀委員会との和解を強要したのだった。
「……異能だけじゃなくて、口も上手なんだね」
呆れている風な口調だったけど、どこか感心している態度な日暮。
すると今まで黙っていた影野が「説得されないでよ」と注意した。
「口車に乗せられてどうするのさ。この一年生が言っていること、全部詭弁だよ?」
「うーん、だけどさ。乗せられてみたい気持ちもあるんだよね」
日暮はにやにやと蠱惑的な笑みを見せた。
らせんと旋律に緊張が走る――
「歌川くんの言っていることを全て受け入れるわけじゃない。でも風紀委員会の職権乱用を公に認めさせるには、二人を保護するのは決して悪い手とは思えないよ」
「またあくどい政治の話?」
「そういうこと。だからさ、私が考えているのはこうなの」
日暮は手を組みながら二人に言い聞かせるように考えを述べた。
「嵐山くんを罰する前に、風紀委員長の須部が越権して攻撃した。それを『生徒会役員候補』の歌川くんが止めに入った。だけど説得ができずにやむを得ず須部を倒した……」
「あん? 生徒会役員候補?」
らせんが疑問に思うのも当然だった。
それではあらかじめ、旋律が生徒会に入ることが決まっていたような――
「それしか助かる道はないよ」
実に悪そうな笑みで日暮はらせんと旋律を見た。
らせんは面倒になったなという顔。
旋律は予想外のことが起きたという顔をしていた。
「二人共、生徒会に入って。会計と書記、庶務の席が空いているから。今なら好きな役職になれるよ」
とんでもない申し出だった。
風紀委員会、しいては委員会連合に狙われている二人を生徒会役員に入れようとするのだから。
これにはらせんと旋律、二人共意味を図りかねた。
「ゆうちゃん。分かっているの? そんなことしたら――」
「元々、敵対しているんだから。関係ないよ。むしろ強力な戦力が増えたと見るべきだね」
影野の苦言に日暮は涼しい顔で解説する。
旋律のほうは「悪くない考え、ですね」と考え出した。
「いくら何でも、三大勢力同士の戦争なんてしたくないでしょう。風紀委員会も、委員会連合も」
「でしょう? ならさっそく手続きを取ろう。ひなくん、準備して」
とんとん拍子に話が進むかと思いきや、影野が「あっさりと認められないよ」と拒絶した。
「生徒会会則における副会長権限で、二人の就任を拒否する」
「ええ……それなら会長権限でひなくんを庶務にするしかないんだけど」
「……ゆうちゃん、それは流石に酷くない? 幼馴染を降格させるって」
まーた痴話喧嘩が始まりそうだぞとらせんはのん気にお茶を啜った。
玉露で物凄く美味しかった。
「だったら、ひなくんが二人と戦って、実力を見ればいいじゃん」
「どうしてそんな話になるの? ていうか、二人の実力分かっているよ。だって須部風紀委員長倒したんだから」
「いいから戦って。三秒数えたらスタートね。いち、に、さん――」
日暮が数を数え終わった瞬間。
らせんは素早く立ち上がり、机を乗り越えて影野の頭を蹴り上げた。
「ぐは!?」
影野はくるくると回転し、奥の壁にぶつかった。
旋律は「はあ。らせんくん、何しているの?」とため息をついた。
「えっ? だって勝負だろ? 日暮会長言ったじゃん」
「そうだけどさあ。しょうがないな」
旋律は冷めた茶を飲み干して臨戦態勢になる。
らせんは元より戦闘態勢だ。
「一応、二人に言っておくけど」
日暮は優雅に座りながららせんと旋律に忠告した。
「私の幼馴染は、結構強いから」
その言葉通り、影野はゆっくりと立ち上がって「酷いことするなあ」と首を鳴らした。
ダメージを受けているはずだが、効いていないようだ。
らせんはおかしいなと感じた。
一撃で決めるつもりだったのに。
「せんちゃん、気をつけろよ」
「……うん。どうやらそのようだね」
影野は二人を見据えて――言い放った。
「副会長として職務を――執行する」
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