第3話生徒会室に行こう!
武蔵会学園の高等部は『普通科』と『特待生』に分かれている。
十五組ある内、一組から九組までは『異能普通科』で十組と十一組は『特待体育科』、十二組と十三組は『特待技術科』、十四組は『特待芸術科』となっている。
そして十五組の生徒は『特別特待生』と言って別格の扱いを受けていた。
一年生から三年生の十五組は各々五名ずつ、つまり十五名しか在籍していない。
受ける授業の内容も特別で、日本政府の重職を担う若き人材を育成する名目で、異常なカリキュラムが組まれている。
その厳しさもさることながら、彼ら自身エリート意識が強く、武蔵会学園の行事はおろか、部活や同好会も見下して参加しない。それどころか他クラスの生徒とも関わりを持たなかった。
しかし、それは一昨年までの話である――
「ねえ、らせんくん。流石にこのままだとヤバいんだけど」
「なんだよせっちゃん。難しい顔をして。首でも回らなくなったのか?」
らせんは冗談で返すが、旋律は真剣そのものだった。
その証拠にらせんの軽口を相手にしなかった。
嵐山らせんと歌川旋律が所属しているクラスは一年三組だ。
異能普通科に属する、武蔵会学園の学級としてはスタンダードだけど、らせんと旋律のせいで少し状況が変わっていた。
らせんが副委員長を倒して三日経つ。けれど風紀委員会が再び襲撃してくることはなかった。
のん気で大雑把ならせんは、あれで懲りたんだろうと思っていたが、用心深い旋律は違った見解を持っていた。つまり、らせんと旋律の異能の攻略法を考えている――
「僕たち最強じゃないし、僕の異能はらせんくんより応用が利かないから」
「俺はせんちゃんがそれを言うか? って感じなんだけど。応用なんか利かなくてもごり押しでなんとかなるじゃん」
二人は机を並べて、購買で買ったパンやら総菜やらを食べながら話している。
周りの生徒は普通に過ごしていた。入学してからは腫れ物の扱いをしていたのだが、危害がないことが分かると安心するようになった。時折、二人に話しかける生徒もいる。
「この前、五人がかりで攻撃してきたんだよ?」
「大丈夫だって。せんちゃんは俺より強い。風紀委員会の生徒ぐらい楽勝だって」
「風紀委員会だけならいいよ。でもさ、『委員会連合』が動き出したらどうしようもない」
旋律の溜息交じりの言葉に「なにその『委員会連合』って」と戯言を抜かすらせん。
長年の付き合いから、すっかり忘れていると分かった旋律は「説明するね」と言う。
「武蔵会学園の三大勢力の一角で、風紀委員会を含めた委員会の連合だよ」
「あー、思い出した。確か『図書委員会』と『美化委員会』と……」
「あと三つは『学食委員会』と『保健委員会』、そして『放送委員会』でしょ」
「そうだった。その六つの委員会が連合を組んでいるってわけだろ?」
「僕たち二人で委員会連合を倒すのは無理だ。だから何とか和解するしかない」
らせんはクリームパンを口に放り込んで「戦うより和解のほうが難しいぜ」と言う。
「入学式に風紀委員長倒しちゃったしな。委員会連合の顔を潰しちまった。俺が退学するしか収まらない」
「そんなことできないよ。らせんくんは『約束』を破るつもりなの?」
「毛頭ないね。そんで、コペルニクス的転回なアイディア、思いついたか?」
人任せに見えるらせんだったが、自分が考えるよりも旋律が考えた結論のほうが上手くいくと分かっているようだった。
現にらせんに話を持ち込んだ時点で、旋律は良い考えを思いついていた。
「実はさ。他の三大勢力に何とかしてもらおうと思って」
「他の三大勢力……『職員室』は駄目だろ。授業中心主義と生徒の自主性を重んずるのが方針なんだから」
「うん。だから『生徒会』に頼もうと思うんだ」
旋律は髪をかき上げながら、らせんに笑顔で投げかけた。
「放課後、生徒会室に行こう。きっと『今世紀最強の生徒会長』が何とかしてくれるよ」
◆◇◆◇
十五組の生徒は基本的に、学校生活を送らない。
武蔵会学園には登校しているが、真面目に授業を受けるだけで、部活動や同好会活動、学校行事などには参加しない。ましてや委員会に入会することもない。
しかしらせんたちが入学する前、つまりは去年の九月の生徒会選挙でその基本は崩れてしまった。
圧倒的な支持率と絶対的な支配力で生徒会長に就任した、一年十五組の生徒がいた。
その生徒は九月から今年の三月時点までに数々の伝説――神話とも言い換えていい――を起こしていて、それが今世紀最強の生徒会長と呼ばれる所以である。
その生徒会長はたった一人で委員会連合だけではなく、職員室を相手取っても対抗できるスペックを持つと言われ、就任する前の『異能試験』では一年ながら一位となったほどだった。
「そんなすげえ生徒会長とアポなしで会うのか?」
「アポなんか取っていたら学校生活終わっちゃうよ。だって僕たち、ピンチなんだから」
生徒会室は本校舎の五階にある。
一階は職員室や保健室、二階から四階は学年ごとの教室で埋まっている。
五階は生徒会室しかないわけではないが、一般生徒はあまり足を運ばない。
「俺でも生徒会長知っているぜ。入学式に遅刻したけど、パンフレットに載っていた」
「噂だと入試問題の作成にも関わっているようだよ」
「流石にデマだろ」
そんな会話をしつつ、二人は生徒会室の前まで来た。
らせんと旋律は度胸のあるほうだが、気後れしてしまっているようだ。
なかなかノックしない。
「……ノックって何回だっけ? 二回?」
「それはトイレだよ。三回するの」
旋律は意を決してノックしようとする――二人は素早く反応して後ろに下がった。
どだんとドアが開いたかと思うと男子生徒が泣きながら出た。
「もう馬鹿! ゆうちゃんのことなんて、知らない!」
そのまま、生徒会室を出ていく――と思ったら、女子生徒が『急に現われて』男子生徒の腕を取った。
「ごめんてひなくん! 私が悪かったから!」
「もうやだ! 誤魔化されない!」
突然、始まった痴話喧嘩にらせんも旋律も反応できなかった。
呆然と二人のやり取りを見るしかない。
「だいたい二人で生徒会なんて無茶だったんだよ! なんだよこの量! 僕は特待生でも特別特待生もないんだぞ!」
「だってぇ。私の友達、ひなくんしかいないし……」
「募集しろって、何回も何十回も言ったよねえ! 去年の十月のときから!」
「そ、そんな! 私が人見知りだって、ひなくん知っているでしょう!? ひどいこと言わないでよ!」
「ほらまた、僕が悪いってことになるじゃん!」
激しい口論とも見れなくはないが、子供の喧嘩のようにも見える。
旋律はごほんと咳払いして「犬も食わない喧嘩の途中ですけど」と声をかけた。
「えっと、何しているんですか? ――日暮生徒会長」
その言葉に、女子生徒のほうが「うん? あなたたちは?」と反応した。
しめ縄のような大きい茶色の三つ編みに太くて短い眉。
色白で全体的に柔らかそうな体型をしているが姿勢は真っすぐだ。
爛々と輝く瞳。それでいて癒し系。
一方、困り顔の男子生徒はこれと言って個性がなかった。
短髪の黒髪で、中性的な顔立ち。
気の弱そうな印象を与える。
「私は日暮だけど、何か用?」
「お邪魔では無ければ、ご相談したいことがあるのですが」
先ほどのやり取りを見ても、丁寧な言い方を崩さない旋律。
何故ならば――肌で感じたからだ。
目の前の生徒会長が――『化け物』であると。
何かと鋭い旋律は出会っただけでその者の強さが分かる。
異能ではなく、経験則と備わっている勘で分かるのだ。
この生徒会長は恐ろしく強い。
きっと自分とらせんを合わせても駄目だ。
不意打ちしようが寝込みを襲おうが無駄――
「いいよ。ひなくん、お茶でも出してあげて」
「……僕、さっきまで怒っていたんだけど」
「後で話し合おうよ。せっかく――スーパールーキーの二人がやってきたんだから」
生徒会長なだけあって、二人のことは知っている様子だった。
旋律は「ありがとうございます」と言って、らせんを見た。
らせんはいつでも戦えるように重心を動かしている。
「らせんくん。君の目標は分かっているけど、目的のほうは忘れないでね」
「……分かっているって」
らせんと旋律の会話を聞きつつ、日暮生徒会長は生徒会室へ二人を招いた。
「ようこそ、武蔵会学園生徒会室へ。相談内容によっては力になれると思うよ」
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