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 荒野を赤褐色の土煙が撫ぜていく。

 敵味方を問わず大地に転がる死骸とほんの少しの生者が、今回の侵攻の苛烈さを物語っていた。

 生存領域は地下に建設されたシェルターだが、黄昏たちはそれすらもあいまいにかぎ分け時折こうして侵攻(アタック)をしかけてくる。

 黄昏にも大きな被害を生むため、一度しのげば多少は勢いがそがれるのだが……。

 今回の侵攻は異様だった。

 まるで何かを畏れ、焦るように黄昏が押し寄せる。

「……切り札を奪い合う、みたいに」


 ぽつりと口からこぼれた言葉に首を振る。

 事実、ザイオンには切り札がある。

 セレクトという強化された人類――。

 

 ☆☆☆

  イザヨイ 10年前

「セレクト?」

 父に連れられ、無機質な白に彩られた研究室を訪れた私は、聞き返した。

 難しい言葉が羅列されたホワイトボードの前で朗らかな夫妻が頷く。

「そう。選ばれしものっていうと仰々しいから。僕が名付けた」

 くしゃくしゃの天然パーマ髪を照れくさそうに掻いた青年は助手の女性にくすくすと笑われながら応えてくれる。

「セレクトは黄昏の一部に適合したミッドナイトの兵士の中でもごく一部から出生する、「『黄昏』に適合する子供」のことだ」

 父が私を膝に乗せ、頭を撫でる。

 半分ほど理解できない話に首をかしげていると天然パーマの青年が屈み、目線を合わせて少し考えた後に簡単にした説明を試みて。

「えーとだね、つまり……」

 しかし、うまく言葉にできないようで口の中でもごもごと「レーツェルが人体に及ぼす影響……」とか、「拒否反応が極端に低い……」などとどもってしまう。

 見かねた助手の女性が同じく視線を私に合わせた。


「つまり、あなたたち騎士と一緒に戦ってくれる最強の戦士! ってこと」

 にこっと笑ってそう話す女性につられて、私も笑みがこぼれる。

「だから、イザヨイ。 お前はセレクトとともにこれから新たな騎士となれ」

 くしゃ、と私の頭を撫でる父に元気に返事をして――。




 ☆☆☆

  イザヨイ 現在


 それから数か月後。お父様はいなくなり、私はザイオンに移り住んだ。

 そしてセレクトに、新しい家族と出会ったのだ。

 

「おい、何をぼうっとしている。次がおそらく本隊だ。気を抜いてる暇はないぞ」

 がしょん、と装甲のぶつかる音を鳴らしてチャンドラが語りかける。

「わかってる。 止まる気はないわ」

 撤収作業の途中、疲労からか過去に一瞬想いが飛んでしまったようだ。

 気を取り直してまだ使える資材をトラックに積み込んで最後に自分も荷台に飛び乗る。

 黄昏もこちらも最後の切り札は温存している、といったところか。

 まだ戦場に壊滅種は出てきておらず、こちらもセレクトは誰一人戦場に出せる状態ではない。

 ここは私たちが踏ん張らないと。

 

 ぎゅっとこぶしを握り締め帰るべき我が家、あの白い修道院を思い浮かべる。

 扉を開ければみんなが待っている、あの場所に帰るために。

 私は必ず、勝たなければならないのだから。


 トラックが出発し、刻一刻とその時は近づく。

 ザイオンのある深い渓谷の麓、広い扇状の荒野に向けて、すべてが集まろうとしていた。

 運転を務めるチャンドラとともに前方、長い不整地の先にある決戦の地を睨みつける。

 

 

  続く

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ファルサイド 赤佐田那覇摩耶羅羽 @Luna_arc

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