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 戦士たちと別れ、基地の中を軽くジャックに説明しながら歩く。

 戦士になる住民の大半はああいった感じの人間性を持っていることが多く、純粋に黄昏からの防衛を行うことに誇りを持っている。

 それは同時に住民の大半が「黄昏に生地を追われた」「親類を奪われた」ということの証左でもあった。

 戦士たちがモラリストであることの要因のひとつに、ここがザイオンというロードの膝元であることが挙げられるが、それよりも仲間同士、生存者同士でいがみ合うような終末感がないことも大きい。

 人は追い詰められすぎると自暴自棄になるものだが、まだ人類は諦めていない、ということだろうか。


「ここが訓練場」

 いくつかの施設をジャックに紹介してから、今日の目的地に着いた。

「うん……」

 防音加工の施された鉄扉を二つ越え、すり鉢状の大ホールに入る。

 中央のグラウンドには運動場兼模擬戦闘状が区分けされており、今回は足場のしっかりした運動場に向かう。

 今日ここに来たのはジャックに正規の戦闘訓練を行わせる承認が出たからである。

 セレクトの面々の中でもジャックはその勝ち気な性格が幸いしてか、近接戦闘、陸上行動において平均を大きく上回る成績を出しており、異例の仮入隊となった。

 これからしばらくは、この訓練場に間借りして戦士の訓練をすることになるだろう。

「あれは……あの影はっ!」

 人工芝の運動場に入った途端、中心に立つ人影に気づいたジャックが駆け出す。

「転ばないでね」

 一応忠告したのだが、聞こえていない様子で駆け寄ったジャックは、その人影を見上げた。


「……」


 無言でジャックを見下ろす巨漢は、ジャックから見ればハードボイルドな戦士にみえているのだろう。


「完全にフリーズしてる……」

 生まれてこのかた独身。

 兄弟もなく、父親とともに傭兵として各地の戦場を渡り歩き黄昏と戦い続けてきた漢、チャンドラ。

 基本的に口数は少なく、寡黙な印象の彼は……。

 極度の人見知りだった。


「改めて紹介するわ、この子はジャック。「セレクト」よ」

 ジャックをチャンドラに紹介し、ジャックに礼を促す。

 ぺこり、と綺麗にお辞儀をしたジャックの頭を軽く撫でる。

「こっちはチャンドラ。 ザイオンでは私を含めて2人しかいない「対壊滅指定」のサイバスロン」

 対壊滅指定。

 生存領域にとって一匹でも防衛圏を突破されるわけにいかない壊滅種と一対一で戦闘を行い、生還した経験のあるサイバスロンに与えられる称号である。

 この称号を与えられたのはサイバスロンの全体でも20%ほどしかいないと言われている。

 ——ただし、そのうち17%は最大の生存領域に集中しているが。

「いずれはジャックたち「セレクト」は全員が「対壊滅指定」に値すると目されているの。

 それでチャンドラ。貴方が彼の教練メニューを組むことになったわ。

 質問はある?」

 簡潔に要件を伝え、チャンドラに顔の下半分を覆うフェイスガードを渡す。

「異存ない。 ただし、不適格と見做したら……俺は降りる」

 マスクをつけた途端、流暢に喋り出すチャンドラ。

 彼は慣れていない相手には”こう“なのだ。

「よろしくおねがいします!」

 より怪物感の強まったチャンドラ相手に物怖じせず、元気に声を上げるジャック。

 こうして、チャンドラによるジャックの指導が始まったのだった。



「あれ、イザヨイさん。訓練ですか?」

 数時間後、訓練場のデータルームで書類を作成していると、情報処理を担当している職員の一人が入ってきた。

「というか、報告書の作成ね。あなたも見てみる?」

 ほんのつい先刻まで、チャンドラによる厳しい指導が行われていた運動場の録画データをもう一度最初から再生する。

 それは照会が終わってから10分ほどたった頃合い、基礎体力をチェックする目的で、運動場を三周ほど走ったジャックがチャンドラに駆け寄る。

「……な、なんですかこの子!? 新技術を使ったサイバスロンですか!?」

 職員がモニタにかぶりつくように見入った。

 それもそうだろう。1周が400メートルあるグラウンドを3周、総距離1200メートルを走ってなおジャックの顔は晴れやかだった。

 若干10歳の少年がである。

「生憎、まだ彼はサイバスロン手術は受けていないわ。レーツェルとの適合テストは済ませているけど」

 ジャックの体は生身のそれである。

 満足げなチャンドラは、基礎の障害走や跳躍力テストなども行うが、いずれも成人男性……いや、もしかするとアスリートのような成績を叩き出している。

「これが「セレクト」……。ザイオンの希望。でも、さすがに不自然ですよ」

 職員はモニタに記録された各身体能力の数字を指でなぞりながらうなる。

 当然、セレクト全員が「こう」というわけではないが、セレクトは全員が何かしかの分野に異様な才能を見せている。

「まあ、想像はつくけど。あなたには開示されない情報よ」

 ロードにおいても目下研究中の事項ゆえに、私はうかつなことを言わないよう自制した。

 ええ~?と不満げな職員は、しかしまた画面に夢中になった。

 場面は変わって「戦闘力テスト」が始まったからだ。

「ちょっと、あのハードな能力測定から模擬戦闘ですか!? いくらなんでも……それに」

「相手はチャンドラ。 近接戦闘ではこのザイオンで最強の男」

 軽装の戦闘服に着替えたチャンドラと、プロテクターを付けたジャックが向かい合う。

 チャンドラの得物は木製の長杖、ジャックの武器は金属製の双剣。

 私は面白いでしょ? と笑って映像の音量を上げた。

 

 

   続く

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