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「このデータを見てくれ」
チャンドラはいくつかのグラフが載ったデータシートを寄越し、向かいの椅子に座る。
「コレは?」
「最近の黄昏の出現割合などのデータだ。俺が作った」
なるほど、このちまちまとした書類をこの大男が。
データシートには、出現した黄昏の種類、個体数、分布図などが細かく記載されている。
それもこの数年分。
「なるほどね……ほぼ横ばいのデータが続いてるのに、今年に入ってから妙に壊滅種の目撃数が多い……」
「そういうことだ。 もしかすると、もしかするかもしれん」
濁した表現をするチャンドラは珍しい。
つまり、過去にないほどの侵攻があるかもしれないということだろう。
とはいえ私たちにできることは多くない。
「状況は理解したわ。ありがとう」
思案を巡らせつつ資料をカバンに仕舞う。
チャンドラもまた頷いて相対的に小さく見えるカップからコーヒーを一口飲んだ。
「そうだ、チャンドラ。あなたジャックの修行をつけてくれない?」
ふと山積みの課題を考えた時、待たせているジャックのことを思い出した。
早く迎えに行かなくちゃ、と思うと同時。先のアイデアを思い出して口に出す。
「ぶっ」
コーヒーをハードボイルドに啜っていた壮年の男が面食らったように吹き出した。
ポタポタと滴る黒い液体を手で拭いながら抗議の視線を送る彼に「お願い」と告げて立ち上がる。
私情抜きにしてもメリットのある話ではあるため、チャンドラには是非頑張ってもらわなくては。
先程よりも余程深刻な顔で頭を抱えるチャンドラを置いて私はエントランスへ向かった。
「おい坊主、ここは公園じゃないぜ」
エントランスに向かうと、数人の戦士たちが人だかりを作っている。
なにかあったか、と渦中を覗き込もうと思うと、その中心にはジャックの姿があった。
「アメ食うか坊主」
「面白いモンなくて退屈だろ」
ジャックは幾人かの屈強な戦士に囲まれてサイバスロンについて聞いていたようで、賑々しく中心部が盛り上がっている。
「ちょ、ちょっと通してくれる?」
体を滑り込ませるように手を差し込み、中へ入ると、上裸の戦士がその改造された肉体を披露していた。
「キレてるぜ!!」
「肩にデッカいレーツェル乗せてんのかい!」
コールに合わせてポーズを変える戦士。
銀色の改造された腕部はギュインギュインと駆動音を鳴らしてツヤやかに基地の電灯を反射している。
「何やってんの……?」
「イ、イザヨイさん!? これはお見苦しいものを……!」
件の戦士はこちらに気付くとビシッと姿勢を正して礼をした。
心なしか先ほどよりも体躯が小さく見える。
「イザヨイねーちゃん! おかえり! このお兄さんたちにサイバネを見せてもらってたんだ!」
ジャックは椅子に座ったままこちらにニコニコと手を振る。
まあ、そんなことだろうとは思ったけれど……。
「へへ……」
集まっていた戦士たちも照れくさそうにしている。上着を着なさいよ。
「じゃあせっかくだし復習をしましょう」
私は「並べ」と目で伝えて戦士を横一列に整列させる。
「さて、ザイオンには3種類の戦士が居ます。種類は?」
コツコツと靴底を慣らしてジャックの斜め前、戦士たちとの間に立つ。
「は! サイボーグ、サイバスロン、一般戦士の3種類であります!」
戦士たちは声をそろえて模範解答を示す。
そう、この基地にはその3種類の戦士が詰めている。
「軽く説明しなさい」
視線でひとりの戦士を示し、説明を促す。
「は!
サイボーグとは! 身体的欠損や欠陥、限界を超えるため、サイバネ技術によって機械と融合した戦士であります!」
声かけと共に戦士たちのなかのサイボーグたちがウォン、と駆動音を鳴らす。ニカッとした笑いが熱苦しい。
「かっこいい!!」
ジャックは目をキラキラさせて見入っている辺り、男の子にとっては心躍る光景なのかもしれないが、一見するとボディビル会場だ。
「次に!サイバスロン!!
レーツェルという神秘機関と適合したもののみが成れるサイボーグであり、レーツェルが生み出す膨大なエネルギーによって従来では考えられないほどの戦闘力を持ちます!!」
ビシッと言い切ったすぐ後、上裸の戦士を含むサイバスロンが埋め込んだレーツェルを煌めかせる。
表情も心なしか誇らしげだ。
「かっっっけえ!!!」
ジャックは先ほどよりも鼻息荒く、ガッツポーズを掲げている。
私もサイバスロンのため、少し高揚してしまう……が、表情には出さないでおく。
「最後に一般戦士!
改造手術やレーツェル装備を使用しない生身の戦士でありますが、それゆえに黄昏に探知されにくく、工作や支援を手広く担う縁の下の力持ちであります!!」
そう、サイバネ技術が一般化したとはいえ、生身の人間の優位性は損なわれていない。
耐久性や戦闘力を補って余りある戦術的価値があるのだ。
サイバスロン至上主義を誇示する部隊はいずれ任務を遂行できなくなる、というのはある程度実践を踏んだ戦士にとっては常識である。
「かっっっっけえ……!!」
ジャックも渋カッコいい……と身を震わせ、漢たちはニカッと笑って筋肉を引き締める。
姿勢を正したままで表情豊かすぎる戦士たちに「ありがとう。もういい」と告げてジャックに向き直る。
「どう? 実際見た感想は」
「みんなカッコいい!!」
至極無邪気な感想に、思わず頬が緩み、
背後の漢たちは一斉にポーズをキメるのだった。
続く
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