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荒野での戦闘を終え、私たちはトラックに拾われ、拠点への帰途に着いていた。
「とりあえず、今日も生き延びたわね」
バイザーを不可視化し、ほんのわずかだが、開放感が体に広がる。この技術は北壁工業によって開発されたもので、当初は「無駄な道楽」と批判されたが、実際の戦場では四六時中フルフェイスのバイザーを装着し続けるのは精神的にも肉体的にも大きな負担だ。気分を少しでも軽くするこの機能が、今では必須となっている。
隣を見ると、同じトラックに乗り込んでいるチャンドラは、私など意識の外といった様子で、酸素供給装置から伸びた管を使い、疲労を回復している。
必殺技「ハイド・ザ・トワイライト」は、ミッドナイト技研が開発した瞬間的に強力な破壊力を発揮する技術だ。しかし、その分反動も大きく、チャンドラの体には毎回大きな負担がかかる。私は北壁工業で改造を受けたため、その技術を使うことはできないが、チャンドラは毎回その技を使って戦場を切り開いてくれる。
「いつも無理させてるわね……」
ふと、そんな言葉が漏れる。
チャンドラは無言のまま、ヘルム越しにぎろりとこちらを睨んだ。そして、手を軽く振り、「しっし」とまるで煙たがるような仕草をする。その仕草は「それが俺の仕事だ」と言わんばかりで、私は思わず苦笑した。
彼はいつだって真面目だ。無骨な戦士らしいといえば、それまでだが。
お互い様か。
否が応でも、そう思ってしまう。この世界の現状は決して芳しくない。ザイオンもいずれは滅びるだろう。戦士たちは皆、それを心の奥底では理解している。だが、それを考えれば足が止まってしまう。それが「勝利」で終わるのか、それとも「敗北」で終わるのかは、誰にも分からない。
この生存領域で、私とチャンドラだけが単独で黄昏を倒せるサイバスロンだ。
だが、このままではいずれ――。
「おい、着いたぞ」
チャンドラに肩を叩かれ、意識が現実に引き戻された。
「……いつの間にか寝てたのね」
「割とすぐにだ」
今回の任務は特にハードだった。気づかぬうちに眠りに落ちていたらしい。窓の外に目をやると、空は夕焼けに染まっていた。人々が「黄昏時」と呼ぶ、縁起の悪い時間帯だ。
「清々しいとは言えないわね」
「だろうな」
嘆息を漏らし、トラックから降りる。
拠点に着いた私たちは、いつも通り、事務処理や報告はオペレーターに任せ、武装のメンテナンスや健康診断、治療を済ませる。戦士たちはそれぞれの居住区に戻っていくのだ。
私は凝り固まった肩をほぐすように回しながら、「ザイオン居住区」のゲートをくぐった。
すると、出迎えの人々の中に、10歳にも満たない少年がこちらに駆け寄ってくる。
「イザヨイ姉ちゃん! おかえり!」
「ああ、ただいま」
少年の名はジャック。私が暮らす修道院で共に過ごしている子供たちの一人で、特に無邪気な末っ子気質だ。短く切り揃えられた栗色の髪が、夕日に透けて赤く輝いている。
「私がいない間、みんなはどうしてた?」
私はジャックを抱きしめ、その頭を軽く撫でる。くしゃくしゃとした髪の感触が心地よい。
「みんな元気だよ!」
ジャックは鈴のように笑いながら、私の腕にしがみつく。その無邪気な温かさが、戦場で張り詰めていた心を解してくれる。
「そう、じゃあ帰りながら聞かせてくれる?」
「うん!」
ジャックの小さな手を握り、私たちは夕日に染まる赤い街を歩き始めた。黄昏が包み込む街の下層、白い修道院へ向かって――。
続く
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