ファルサイド

赤佐田那覇摩耶羅羽

戦士と生存領域

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 広がる荒野は、果てしなく続いている。起伏に富んだ地形には、文明の干渉など一切感じられない。

「〜♪」

 軽やかな鼻唄を口ずさみながら、私は窓の外をぼんやり眺めた。ここは地上から300メートルの上空、揺れる輸送ヘリの中だ。


「こんなにうるせえのによく歌ってられるな」

 耳に指を突っ込み、プロペラの轟音に不満を漏らす大男が、鋼鉄のブーツで床を乱暴に踏み鳴らした。


 その無愛想で無骨な男は、チャンドラ。巨大な戦斧を手に、悪魔さえも打ち倒す戦士だ。彼の存在はこの狭いヘリを一層窮屈にしている。

「そう言わずに。 あの子たちはこんな広い空はめったに見られないんだよ?」

 私は鼻唄を止め、拠点で待っている子供たちのことを思い浮かべながら、再び窓の外に目をやる。

 澄み切った青空が広がり、まるでここが地獄だとは思えないほどだ。


「イザヨイさん、チャンドラさん! あと60秒でミッション開始地点です。降下準備を!」

 インカム越しに響く声に軽く頷き、私はヘリ内の武装を確認した。ヘリの容積を占める大量の武装を手早く装着し、ハッチを開けると、気圧差で強風が吹き荒れ、体を覆う装甲を撫でる。

 眼下に広がる戦場には、小さな粒のような戦士たちが数多く散らばり、それを遥かに凌駕する巨大な怪物たちが跋扈していた。


「ミッションスタート」

 その言葉を、私たちはどちらともなく呟いた。次の瞬間、私はヘリから飛び降りる。


 一瞬の滞空。そして自由落下へと移行する。眼下に迫る戦場を睨みながら、私は怪物のエネルギー弾に備えて盾を構えた。

 私はイザヨイ。『紅月の守護者』の異名を持つ、機械化兵士サイバスロンの一人。

 今、私たちが相手にするのは「黄昏【トワイライト】」。16年前、この世界に突如現れた正体不明の怪物で、人類の天敵。

 この16年で人類はいともたやすく生存領域を古代まで衰退させられた、とも言われている。


「タイミングを合わせろ、あと3秒だ」

 チャンドラの低い声が響き、私はカウントを合わせる。3、2、1――

 爆音と共に大地が爆ぜ、戦線が一瞬で形を変えた。チャンドラの戦斧が地面を粉々に砕き、衝撃波が黄昏を押し返す。

「チャンドラさんだ!」

「そのまま押しつぶせ!」

 戦場をともにする、名も知らぬ戦士たちの歓声がインカム越しに飛び込んでくる。


 だが、私は冷静だ。

「油断しないで」

 黄昏の一体が、土煙を巻き上げながら反撃を開始してきた。バイザー越しに視認済みの敵だ。恐れるに値しない。

 私は大盾に組み込まれた「レーツェル」を励起させ、凍結の波動を前方に放射する。


「Gaaaaaaarrrrr!!!!」

 絶叫と共に、黄昏は氷結した大地に囚われた。だが、これで終わりではない。

 黄昏は強靭だ。この効果が持つのは、せいぜい5秒。


「5秒あれば十分だ」

 再びチャンドラの声が空から響いた。最初の一撃で反動を利用し、宙に跳ね上がった彼が、輝く戦斧を振りかざす。その斧は、天地を裂くかのような勢いで振り下ろされる。


「Hide the twilight――【業腕爆砕】!」

 紫紺のエネルギーを纏った斧が地面に炸裂し、黄昏たちは瞬く間に潰されていった。

 チャンドラの吐血する音が耳に届いたが、私はそれに気を取られず、直剣を構えて残った砲撃型、支援型の黄昏に向かって駆け出す。


「チャンドラ、できるだけ早く復帰して」

「言われなくても、ゴホッ……やるさ」

 彼の苦しい声が返ってきた。


 ***


 ここは宗教都市拠点「ザイオン」。

 終わりゆく世界に、わずかに残された人類の砦。

 そして私たちは、この世界を取り戻すために、限られた命を削り続ける機械化兵士――サイバスロン。

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