会いたい女の子

 禁忌の子に毎日食事を届けるという仕事に慣れてきた。本島から彼女の島まで食糧を乗せた舟で海を渡るのだ。驚いたことに噂とは違って、彼女は大分痩せている以外は普通の女の子だ。穢れを移してくる素振りは全く無い。獲物をかみ殺すキバとかも無い。ちゃんとフウコという名前もある。しかも話が毎回盛り上がる。彼女はオレの話をふんふんと頷いて聞いてくれる。気が付けば日が暮れそうになっている。帰りが遅いと言われこないだ親父に殴られた。頭の上に回る星を感じながらも彼女の顔が浮かんでいる。ここ最近ずっとこんな感じだ。でも……。


 オレがあいつを好きなわけは無い。あくまでも向こうは禁忌の子なのだ。そんな感情を抱くことはさすがに無い。そうだとしても、付き合うことは神が許さない。


 

 「親?」

 「そう、パパとママに会いたいの」

 「親ね……」

 フウコは下弦の月のような目をこちらに向けてくる。透き通った目に見とれてしまう。そこに移る自分の顔はなんだかへなへなしている。何ていう顔だ。慌てて無表情になる。

「お前、自分のことわかってるのか?」

「わかってるよ。でも」

 フウコは下を向いてつぶやく。

「会いたいんだもん」

 かわいそうと思ってしまう自分がいた。

「まあ協力してあげないことはないけど」

 言ってしまった。

「え? 本当に?」

彼女の顔が輝いた。おい、何言ってんだオレ。

 「ま、まあ……」

 オレは髪をかきむしった。


 小舟の上で海を渡りながらオレは思う。いくらなんでも禁忌の子だろう、一緒にいること自体が危険なはずなのに。何を同情してるんだ…。

 大きな波が来た。危うく落ちそうになる。なんとか持ち堪えた。最近考え事が多い。慣れたときが一番危険だと先代は言っていたっけ。おっとまた波だ。



 小屋に帰ってきた。親父と母親がテーブルの鳥肉にかぶりついている。もう遅いのかの一言も無い。

「禁忌の子の親ってどうなったんだっけ」

 椅子に座るなり、言葉が出てきた。

「あん?」

 親父がこちらに目をやった。次に母親と意味ありげな視線を送った。

「裁きにあった」

「え?」

「海に沈められたんだ」

 頭の中にさっき渡った海の光景が広がった。沈められる?

「あのなあ、禁忌の子の親ってのはな、禁忌を生み出した悪玉ってわけだ、死んで当然だろう。現にそういうお告げが出た。アレも海に沈めようとしたが……」

「お父さん」

「ああ、すまん、言い過ぎた、忘れてくれ」

 母親の目配せに親父が珍しく応じた。そのあとは無言の食事が続いた。オレは味を感じることもできずに肉を嚙みちぎり続けた。


 どうすればいいんだ? そのときから頭の中でその疑問が駆け巡るようになった。

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