家族は四人

相沢泉見

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 やぁ、みんな、こんにちは。僕の名前はサトル。

 ついこの間、十二歳になった。ちょっと身体が小さいから子供扱いされるけど、もう立派な大人だよ!

 僕が住んでいるのは、東京の端っこ。一軒家に家族が四人、ごく普通の暮らしをしている……と思う。

 今は日曜日の夕方四時。朝からとっても暑かった。こんな日は、冷房がガンガン効いた部屋でダラダラするのが一番。

 みんなもそう思うだろ?

 そんなわけで、僕はほぼ一日中、リビングのソファーの上にいた。ここは冷房の風がじかに当たる一番いい場所なんだよね。


 あぁ、いけない。ずっと寝っ転がってたわけじゃなかった。三十分だけ、お父さんのジョギングに付き合ったんだ。

 実はお父さんは最近ちょっとメタボ気味。会社の健康診断で『要注意』のハンコを押されちゃったんだって。

 でもお父さん自身は運動が大嫌いなんだよね。いつもお母さんに「ジョギングしてきなさい」ってせっつかれてるけど、なかなか腰が上がらない。

 仕方なく、僕が嫌がるお父さんを引っ張って毎日外に連れ出してる。そのまま、ペースを見ながら一緒に走ってるんだ。

 ここまでやらないと運動しないなんて、お父さんってば世話が焼けるなぁ、まったく。

 お母さんは、平日は近所の『ニコニコマート』で夕方までパートをしてる。とってもきれい好きで、パート先から帰ってくると、真っ先に掃除機をかけるタイプだ。

 まぁ……留守番をしている僕が散らかすからなんだけどね。えへへ。


「ただいまー!!」

 あ、もう一人の家族……お姉ちゃんが帰ってきた!

 高校生のお姉ちゃんは、朝から部活動で学校に行ってたみたい。リビングでテレビを見ていたお父さんとお母さんが「おかえりー」と返す。

「暑いー、疲れたー。サトル、ちょっとどいてよ」

 ソファーを陣取っていた僕を押しのけて、制服姿のお姉ちゃんがなだれ込んできた。ちょっとムっとしたけど、そうしたくなる気持ちは分かるよ。ここ、涼しいもんね。

「あらあらお姉ちゃんったら、スカートを履いたまま足をガバっと広げないでちょうだい。みっともないわよ」

 冷房の風に当たりながら胡坐をかいているお姉ちゃんを見て、お母さんが顔を顰めた。

「えー、いいじゃない。家の中なんだから。外ではちゃんとしてるよ、あたし」

「お姉ちゃんがそうやってお行儀の悪いことをすると、弟もマネしちゃうでしょ。ほら、まっすぐ座る!」

 僕は胡坐なんてかかないけど、確かに年下の人が見たら悪い影響があるかもね。

 お母さんにたしなめられ、不満顔のお姉ちゃんはしぶしぶ座り直した。

 ……と思ったら、急にパッと立ち上がる。

「そうだ、アイス食べよう! 昨日買っておいたボーゲンダッツ……!」


 ボーゲンダッツとは、ちょっと高いアイスクリームの名前だ。

 どうやら、お姉ちゃんは一人で美味しいものを食べるつもりらしい。「ダッツ、ダッツ。ダッツのクッキー&クリーム♪」という謎の鼻歌を歌いながら、うきうきした様子でリビングと一続きになったキッチンへ足を向ける。

 しかし、次の瞬間、耳をつんざくような大声があたりに響き渡った。


「ない! あたしのアイスが――ない!!」


 リビングにいたお父さんとお母さんと僕は、互いに顔を見合わせてから、慌ててお姉ちゃんの傍に駆け寄った。 


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