解説など

なかがきと解説

○なかがき


 ども。作者の岩間です。いつも、キハチ正伝を読みに来てくださり、ありがとうございます。


 長い、長い物語もやっと、ここまで辿り着き、ミケヌやキハチとオモヒカネの戦いもいよいよ目前です。文字数も30万字に達しようかというところでありますが、このタイミングで「なかがき」を記しておこうと思います(まだ、終わってないので「あとがき」ではないのです)。


 物語では、ミケヌとキハチが闇墜ちしてしまいましたが、実は、作者もあまりの事態に「うぎゃ!」と叫んでおります。なぜなら、当初のプロットではここまでのことは想定していなかったのです。二人がオモヒカネの仕打ちに怒って、結界を打ち破るということは考えていたのですが、まさかこんなことになるなんて。


 それほどにタヂカラオを失ったミケヌとキハチの怒り、悲しみは大きかったんだなと改めて感じています。物語には因果があるというか、無意識のうちに書いたことなどが後に大きく影響するってことが多々あるのですが、特にキハチ正伝についてはこういうことが多く起きます。これからどうなるのか……作者にも分からないことが多いのですが、彼らの物語をきちんと語っていけるよう気合いを入れたいと思います。


 さて。以前にもどこかで書いたことがあるような気がしますが、十年以上前、とある出会いをきっかけに、「小説家になりたい」という夢を改めて志すことがありました。子どもの頃に抱いたこの夢。私生活の忙しさにかまけ、ずっと心の片隅に追いやっていたのですが、ぼくは何をやっているんだろう?と思わされた出来事でした。実は、その頃に曲がりなりにも完成させた長編小説がこのキハチ正伝の元ネタになります(この出来事については、機会があれば書きますね)。


 キハチ伝説は、高千穂では有名な民話で以前からぼくも知っていたのですが、鬼であるキハチとキハチを倒したと伝わるミケヌノミコト(神武天皇の兄)が実は親友だったら……と思いついたところから話を膨らましました。

 当時は十万字くらいの分量で、今思えばキャラクターの造形もストーリーのディテールも全てがユルユル。ダイジェスト版みたいなストーリーで、これではキャラクターたちの抱える葛藤やキャラクター同士の絆が伝わらないと思って苦悩しました。生涯で初めて書いた長編小説だという思い入れや、キャラクターたちへの愛着が湧いていたことなどから、捨てるに捨てられない……そんなふうに悩んだことを覚えています。


 しばらくどうしていいのか分からなくなって放置していたのですが、その後に別のお話を書き上げたり、数多の入門書を読んだりしたこともあって、物語の創作のすべというものが、ゆっくりとですが身についていき、この物語は十万字程度で終わるものでは無いのでは無いか、と思うに至りました。そして、構想にふさわしい尺を取って、きちんと書き残すことが無いように書き残そうと思い、一から書き直したと……まあ、そういうことになります。


 ぼくの中では、この物語でプロになろうとかいう邪念はほとんど消え去っていまして、今ではライフワーク的な取組みになってしまいました。ただ、ここで誤解があるといけないので補足しておきますが、読んだ人に「面白い!」と共感してほしいとは思っているのですよ。決して独りよがりでいいと思っているわけではないのです。また、プロになりたいという野望も諦めたわけではなく、別の話で実現させようと取り組んでおりますので、一応……。


 それで、この物語。十年以上もずっと構想をやめていなかっただけあって、頭の中には様々な設定があります。物語の中でも追々語っているつもりではあるのですが、一回きちんと解説みたいなことをしていた方がいいんじゃないかとそう思っていました。こんなこと、作者が自らするのは掟破りのような気もするのですが、いいんです。やっちゃいます解説を。と、いうことで……実はこの長い、長い「なかがき」は前置きだったのです(^_^;

 よかったらお付き合いください。


○解説


・タイムスリップ

 黒山の引き起こした衝突型加速器の実験の事故により、量子力学の天才である藤田をはじめとした人々が過去の高千穂へタイムスリップします。物語では過去編の冒頭(第2章の武の話)で語られますが、ここがこの物語の起点です。

 藤田の研究は、量子の持つ性質(時間や距離を超越して同時に状態が変化するという性質)を利用しようとするもので、タイムスリップそのものは完全に事故でした。


 タイムスリップした先(現在の高千穂周辺)には藤田たちの知らない特異な能力を持った人々(天津神や国津神)がおり、その上、大蛇の化け物や鬼界の住人と遭遇したりします。物語の設定としてはこのタイムスリップにより分岐した世界が、現代の佳奈たちが住む世界に繋がっています。


 ちなみに、作中でも語られているとおり、中国の春秋戦国時代、紀元前四世紀から五世紀のあたりの高千穂にタイムスリップしているのですが、現地の人々は定説よりも文化的な生活を営んでいます。いわゆる早期の縄文文化をイメージしていますが、大陸との交易も細々とですが行われており、出雲などでは鉄器も作られているとしています。この時代中国ではキングダムの漫画の世界のような大規模な戦いが行われてたりしているわけで、日本だけ文化的に遅れた生活をしているというのはどうにもイメージできなかったんですよ。


・現代への生まれ変わりについて

 主要な登場人物の何人かは過去からの生まれ変わりであり、何人かは過去から時代を超えての生き残りです。

 例を挙げると、佳奈や浩、丈太郎、フェザーは生まれ変わりで、武見や藤田、遥、そして宿敵のオモヒカネは時代を超えた人々です。


 生まれ変わった人々は何らかの理由・原因があって、この時代を狙って生まれ変わってきています。それについては追々語られることになります。


・時代を超えて生き残った人々について

 武見たけみは、時の流れが遅くなった場所で暮らすことにより、現代まで生き残ったウーです。ウーは春秋戦国時代に中国大陸の小国から王子を守って逃げてきた武術の達人という設定です。


 また、藤田も姿を変えて(粘土でできた人形のような姿になっています)、ここまで生き残っています。二人については、単純に時の流れが遅い場所にいたから……だけでは説明できないほどに長い時間を超えているので、別の方法も併用しているという設定です。この方法については、まだ秘密です。


 武は、度々、時の政権に力添えしたという設定もありますので、書く機会があれば番外編みたいなことも書ければ……という思いはあります。

 あと、ミケヌとオモヒカネがいかにして、時間を飛び越えてきたかについては、今後のエピソードで語る予定ですので、これも今のところ秘密です笑笑


・物語の柱とテーマ

 この物語では三組の人間関係が太い柱になっています。

 まず一つめは、量子力学の天才、藤田スクナビコナと彼に惚れ込み支えながらも嫉妬する黒山オモヒカネの関係です。この関係における黒山の葛藤が、実験の事故やその後の闇墜ちに繋がっていると言っても過言ではありません。そういう意味で、全ての元凶はここにあったわけです。黒山は、黒牙ヘイヤーと出会っていなければ、闇墜ちしなかったかもしれないのですが、闇墜ちした時点で実験の事故は起こしているので同情はできないです。まあ、人間くさくてどこか憎めない仕事のできるおじさんなのですが。


 次に、過去の世界において親友だったウーと健二(ミケヌの父親)の人間関係です。二人は、過去編前半の主人公とも言えますね。大陸から警護してきた小国の王子を亡くし、落ち込む武にとって、子どものように無邪気な健二はほっとけない存在だったんだと思います。本当に仲良しで、お互いに思いやるいいコンビでした。健二の父が亡くなり、健二の元気がなくなっていくシーンや武が健二のことを心配するシーンは、書いていてぼくも少し辛かったです。本当は健二が死ぬシーンも書く必要があったのかもしれませんが、ちょっと書けなかったんですよね。それくらい健二はぼくにとっては思い入れのあるキャラクターです。


 最後にミケヌとキハチの二人の強い友情です。最初の出会いはミケヌが弟のワカミケヌと魚釣りに行っていたときでした。電撃で魚を大量に殺すキハチを怖がることなくミケヌは仲良くなっていきます。たぶん、これまで力を恐れられ孤独だったキハチにとって、そんなミケヌの態度は嬉しかったはずです。二人は互いに認め合っていて、ふだんから強い信頼で結ばれています。

 また、ミケヌとキハチの二人には、弟のワカミケヌや友人のタヂカラオはもちろん、ミケヌに密かに心を寄せるサクヤ、二人の関係を思いやり見守るサルタヒコやアメノウズメ、武など様々な人間が関わってきます。天津神であるアマテラスやスサノオにまで気に入られているミケヌとキハチはまさにこの物語の根幹にいるキャラクターです。


 このように多くの人々の愛情や友情、確執や葛藤が物語を進めていきます。作者としては、困難の中にあっても絆を深め、足掻いていく人々を描きたいと思って取り組んでいます。


※続きます。次の項では様々な設定について紹介しようと思います。

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