第10話 招集
「ああ、そうだ……クマソやアガタもだ。周辺の主立った国々の長たちを招集するのだ。オモヒカネに訊いて、他に集めた方がいい国があれば、そこにも声をかけよ……」
小さな声でアメノウズメが呟くと、そのたびに水晶の勾玉の首飾りが光った。
火山の爆発によってこれから起こる被害を少なくするためには、早急に対策を話し合う必要があった。帰ってから近隣の国々へ連絡を取ったのでは時間がかかりすぎるのだ。だが、思念伝達の術を使ったことで、すぐに近隣の主だった国々へは連絡が付くだろう。オモヒカネが同盟を結んだり、支配下に置いた国々についても、知らせた方がいい国には声がかかるはずだった。今回の火山の爆発について、周辺の国々がどれくらい情報を持っているかは分からなかったが、五千年前の鬼界島の大爆発と悲惨な被害については、伝説で伝わっている。連絡が付けば、ことの重大さには思い至るに違いなかった。
黄泉比良坂の暗く濃密な空間をフタカミへ向かって足を進める。白い道の所々にある微かに光る石を眺めながら、サクヤは大きく息を吐いた。とりあえず、生命の危機は脱したが、これから先のことを考えると気が重かった。
サクヤは、ミケヌやキハチと一緒に何も言わずに黙々と歩いた。
一行は、南へ来たときとは比べものにならないくらい楽にフタカミへと着いていたが、実際には二日経っていた。
*
フタカミへ到着した翌日の正午――
ミケヌとワカミケヌ、そしてサクヤとキハチ、タヂカラオの五人は、サルタヒコの屋敷の前にある大きな丸太を組み上げた門の所にいた。
続々と集まる近隣の国々の者たちがやって来るのを出迎えていたのだった。
「遠路、お疲れ様です。馬はあちらに繋いでください。会合はこちらになります」
頭を下げて、長たちに案内をする。
次から次に、フタカミの周辺の国々を納めている者たちが訪れた。誰もが国の長たちなだけあって、立派な身なりをしていた。真っ白な貫頭衣を来て、翡翠や水晶の勾玉の付いた首飾りを付けている。
お付きの者たちも、護衛のための立派な剣を下げている者がほとんどだった。ミケヌたちはそれぞれの武器も預かり、サルタヒコの屋敷の広間へと案内していった。
「これからどうすれば、火山の被害を防ぐことができるのか、全く分からぬな……あの時、見たような噴石まで降ってくるようには思えないが……」
客が途切れた時、キハチが空を見上げて言った。
空はどんよりと曇り薄暗かった。太陽も鈍い光が射すだけだ。西の空は既に真っ暗になっており、地面には、既に幾度か降った火山灰が積もっていた。風向きにもよるが、明日はまた火山灰が降るかもしれない。
「確かに、俺にもいい考えは浮かばない。火山灰が降って来ぬよう、風向きが変わることを祈るくらいしかないんじゃないか……」
ミケヌがため息をついて言った。
二人のやり取りを聞いてサクヤは暗澹たる気持ちになっていた。あれからずっと考えていたが、サクヤ自身もいい考えは全く浮かんでいない。
二日前の地獄のような光景が目に浮かんだ。万が一、あのような光景にここがなるとしたら……どうしたらいいのか。
ふと、向こうから馬のいななく声が聞こえてきた。
「あ。オモヒカネさん!!」
ワカミケヌが声を上げて、走って出迎えに行く。
目を移すと真っ黒な服を着た
「最後に登場したか……」
ミケヌが言うと
「ああ」と、キハチが頷いた。
長たちの白い服を見慣れていた目には、オモヒカネの真っ黒な衣装が異様に映る。
「タカチホの頭領であるオモヒカネ。そして、今や奴の軍隊を統率し、我々のいるこの大地である九州の北一帯を押さえるタケミナカタか――時代は変わったものだな」
タヂカラオが皮肉を込めて言うと、
「うむ。以前に九州を統一すると言っていたが、もうそれも目前らしいな」
キハチが眉根に皺を寄せて応じた。
ミケヌが、キハチとタヂカラオの肩を叩いた。
「とりあえず、今は目の前の……できることをするしかない」
ミケヌはそう言って、二人の背中を押し、ワカミケヌを追った。
サクヤはオモヒカネの方へ向かうミケヌたちの背中を追いながら、大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。
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