第8話 洞穴(1)
「皆、よく頑張ったな。この近辺では
サルタヒコが皆を見回しながら言った。
暗い黄泉比良坂の中に、ぼんやりとサルタヒコの笑顔が見えた。
サクヤは完全に気が抜け、その場に座り込んでしまっていた。アメノウズメが隣で心配そうな顔をしているのが分かる。
「サクヤ。よく役目を果たした。場所は大体の当たりを付けて近くにはいたが、お主の合図で正確に出入り口を開くことができた」
アメノウズメのねぎらいにサクヤは笑顔で応えた。
「まあ、結果的に皆、無事でよかったよな。危険なのは承知で来たんだ。何より火山の爆発がどうなるのか興味もあってのことだったからな……」
キハチが笑って言うと、
「そうだな。短い旅だったが、何とも興味深いものがあったよ。こんなに大規模な火山の爆発に出会ったのは初めてのことだったからな」
「ホント凄かったんだぜ! キハチさんの力が無かったら、俺たち噴石でやられてたかもしれないよ!!」
ワカミケヌが勢いよくそう続けた。
「まあ、それはそうかもな」
キハチが頭を掻いて照れると、同時に皆が笑った。
とりあえず命の心配が無くなったことで、皆、一様に安堵していたのだろう。そこにいた誰もが笑顔だった。
サクヤは大きく息を吐き、隣のミケヌと顔を見合わせるとまた笑った。
皆が落ち着いたところで、
「アムラよ。仲間がいるのはあの山でいいんだな?」
サルタヒコが訊いた。
「はい」とアムラが頷くと、
「大体、どの辺りかは分かるか?」と続けた。
「頂上に近い場所の山腹に大きな洞穴があって、そこに隠れているはずです」
サルタヒコはアムラの言葉に頷くと、彼の仲間を助けるために目の前の山まで行くことを宣言した。今いるところから見えていた場所なので、目測で出口を開けてみるとのことだった。
サクヤは震える膝を押さえ、立ち上がった。少しふらつくが、もう大丈夫だった。
黄泉比良坂の暗く濃密な空間に、白い道が続き所々にある大きな石が微かに光っている。気を抜くと、上下の感覚がおかしくなりそうなその道をサルタヒコの背中を追いかけ歩く。
すると、程なくしてサルタヒコが立ち止まった。上に向かって鼻をくんくんと鳴らしている。
「着いたぞ」
そう言うと、眉間に人差し指を当て辺りをぐるっと見回す。数歩左に移動すると、二回手を打ち鳴らした。
みるみるうちに、目の前に大きな穴が四角く開いた。向こう側が白く光って見える。
サクヤは口に布をまき直し、大きく息を吐いた。
「山の頂上に近い場所だ。念のため先にキハチに降りてもらって、雷の結界を張ってもらおう」
サルタヒコが言うと、
「ああ分かった」すぐにキハチは穴から外へと出て行った。
皆、次々に続く。
外に降りると、木々の燃える焦げ臭い匂いと火山灰の熱とで肺が苦しかった。
サクヤはすぐにキハチの張った結界の下に逃げ込んだ。
山から下を見たが、太陽が黒い雲で覆われているため、暗くてよく分からない。だが、そこら中が燃えていて、火山の噴気と煙が充満しているのは分かった。
とりあえず、火山灰も含め、大きな噴石もキハチの結界で遮られていた。
「さて……」
サルタヒコは大きく息を吐き、吸った。
サクヤは神界から神気が降りてくるのを感じた。サルタヒコが神気を導いているのだ。
集められた神気は一旦サルタヒコ中に入り丹田まで落ちていくと、一気に増幅されながら頭へと抜け、外へと拡がった。
「何を……?」
「しっ」
訊こうとするサクヤをアメノウズメが止めた。
どうやらサルタヒコはその拡げた神気で、アムラの仲間を探しているようだった。
「我の放った神気の網で、生き物の放つ気を探索する……。アムラの仲間が生きておれば、すぐに分かる」
サルタヒコは小さな声でそう言い、額から汗を流した。
しばらくして、
「見つけたぞ。二十人ほどの集団だ」
サルタヒコが呟くように言った。
「着いてこい。キハチの結界から出たら皆死んでしまうからな。このまま、皆で行こう」
サルタヒコはそう言って、キハチの背中を叩く。
すると、
「でも、これはこれで疲れるんだけどな」
と、キハチが顔をしかめて言った。
「若いんだから、頑張れ」
ウズメが笑ってキハチの背中を思い切り叩く。
こんな時、いつもなら大きな声で笑うはずのキハチが笑わなかった。
サクヤはさすがに、キハチのことが心配になり、横に立った。すると、ミケヌとワカミケヌも同じ気持ちだったのか、キハチの横に立ってその太い腕を支えるように持った。
皆でキハチの結界から出ないように気をつけて、山を下った。サルタヒコが言うにはすぐ近いところにアムラの仲間はいるとのことだった。
しばらく降りると、すぐに大きな洞穴を見つけた。
中に入ると、すぐにキハチが結界を切った。
「ふう。出しっぱなしはホント、冗談じゃ無く疲れるんだ」
もうこりごりだというように言うキハチを皆でねぎらう。
そして、洞穴の奥に向かおうとすると、
「ちょっと待て!! 何かいる」
武が警戒を促すように叫んだ。
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