第4話 出発(2)

 一行は出発してから休憩することなく、ずっと歩き続けた。

 昼前には潮の香りがしてきて、木々が途切れた斜面から海が見えてきた。もう少し行くと武との待ち合わせ場所の砂浜に着く。

 サクヤははやる気持ちを抑え、足を進めた。ミケヌやキハチと何回か、魚を捕りに訪れたことがあり、この辺りには土地勘があった。


 砂浜では、ざん、ざん

 と、激しく波が打ち寄せる音が響き、暖かい潮風が吹き付けてきた。


 まだ、武は来ていなかった。

 どうしたものかと思っていると、何かをたくさん抱えたタヂカラオが寄ってきた。

「どうしたの?」

 サキヤが訊くと、

「いや、休憩するだろ?」

 タヂカラオはそう言って腕一杯に抱えた丸太や大きな石を砂浜に投げ出した。


 それらを丸く並べ、それぞれ座ると、

「いや。なんかたまには外に出るのも楽しいものだな」

 スクナビコナがほっと息を吐いて言った。

「ですよね!」

 飛びつくようにサクヤは返事をしてしまい、思わず口を押さえる。

 すると、

「サクヤはそんなに楽しいのか? 俺たちには大事な任務があるんだぞ」

 キハチがわざと意地悪な顔をしていうと、サクヤは頬を膨らました。

 皆が笑い、場が和む。


「アムラさん。せっかく時間があるから、最初にどう爆発したのか、様子を教えて欲しいんだけど……」

 ミケヌの弟のワカミケヌがアムラに訊ねた。

「ええ、よかですよ。もう朝方が近かったんですけど、突然どんって音が鳴ってですね。辺り全体を揺るがすような揺れが来たっです。そいで、慌てて外ん出て……山ん方を見たら空がだいだい色に染まっちょって、噴煙が出ている辺りに紫や青の雷が幾つも出ちょったんです」

「雷か……」

 キハチが呟くと、

「火山雷だな。噴火物と空気の摩擦で起こる現象じゃ」

 スナビコナが言った。


「火山が爆発すると、溶岩流って言って火山高から高温の溶岩が流れるようなのですが、それは見えましたか?」

 ワカミケヌが訊く。

「いえ、後で分かったんですが、我々の住んじょるところとは違う地域に流れたみたいです。朝んなって、木が燃えちょる山があってそいで気づきました」


「後で分かったとは?」

「日が高くなって、ずっと北の方で煙がたくさん上がっちょるのが見えたんです」

「そうですか。じゃあ、流れる方向が違ったら……」

「ですね。流れる方向が違えば、おいたちの里も危なかったかもしれんです」

「噴煙はどれくらい噴き上がったんですか?」

「口で説明すっとが難しいですが、かなり空高く上がったです。石が振ってきたんで、慌てて逃げ出したんですが……」


「ふうむ」

 スクナビコナが唸った。

「おいは昔、こっちでお世話になったサルタヒコさんに伝えようと高千穂まで来たっですが、おいの仲間は途中にある小高い山の上でひとまず、避難をやめたんです」

「そうか……じゃあ、とりあえずその山を目指していく感じだな」

 キハチがそう言うと、

「被害が広がっていないことを祈らんとな……」

 スクナビコナが呟き、皆頷いた。


 しばらくして、向こうから歩いてくる武の姿が見えた。もう一人一緒についてきている。

「武の隣にいるのはマオさんか。久しぶりだな……」

 ミケヌが言った。

 サクヤは潮風に巻き上げられる髪を押さえながら歩いてくる武の姿を見つめた。久しぶりに皆がそろうのは正直嬉しくて、浮かれていく場所ではないとは分かっていたが、気持ちを抑えることができない。

 サクヤは大きく息を吐くと、立ち上がって武たちに手を振った。

 向こうから手を振り返すのを見て、自分の顔が自然と笑顔になるのが分かった。

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