第6話 遺物(2)

「この材質は、何か、健二たちの研究所に似てないか?」

 俺は健二に訊いた。

「ああ。だが、コンクリートじゃないな」

 健二が言った。

「ふむ……」

 俺はそう言って、建物の表面を撫でた。苔の生えていない場所はすべすべと滑らかで、やはり研究所の材質に似ているように思える。


「上の方を見てみろ。あんな曲線は、俺たちの時代でも見たことがない。作ろうと思えば作れるのだろうが……」

「そうなのか?」

「ああ」

 健二が頷き、建物に近づいてまじまじと見た。


「さて、それでは神殿の中に入ってみるか?」

「よろしく頼む」

 藤田が頷いた。

 サルタヒコが向かった入り口らしき場所は、ただの石の壁で戸のようなものがなかった。

 怪訝に思っていると、サルタヒコが壁に向かって二礼した。


「かけまくもかしこき、いざなぎのおおかみよ。

 我、サルタヒコとその妻、アメノウズメ、そして我の仲間であるスクナビコナ、ホオリ、タケミカヅチ、ヤマダが参りました。

 神殿へと我々が入りつかまつること、お許しくださいますよう、

 かしこみ、かしこみ申し上げます……」

 サルタヒコは、そう言うと、手を二回、打ち鳴らし、力を込めて左右に開いた。


 すると、パチ、パチッと音を立て、神殿の壁に人が通れるくらいの四角い穴が開いた。

 黄泉平坂への入り口を開くときにも似ていたが、今回の場合はサルタヒコの能力ではなく、元々建物に備わっているカラクリが機能して開いたように思えた。

「さあ、入るぞ」

 サルタヒコはそう言うと、神殿の中に入っていく。俺たちも顔を見合わせ、中へと足を進めた。


 中には途中で見たものと同じような機械や道具がたくさんあった。違ったのはその大きさであった。見上げるほどにそれらの機械は大きく、これが一体何をするためのものなのか、全く見当が付かない。

「少し、触ってもいいかな? サルタヒコ殿?」

 藤田がそう言うと、サルタヒコが頷いた。


「むう、これは未知の金属だな。一体何で出来ておるのだ……」

 藤田はそう言いながら機械の表面を撫でた。

 俺の目には、金属と言うよりは、一種の石のようにも見えた。確かに、見たことも聞いたこともない材質だった。

「これは何をするものなのだ?」

「ここにある機械は、高天原に満ちている神気を動力として動くもので、高天原と我々の世界が離れていかないように、働いていたものだと聞いている。だが、結局はその時間を稼いだだけで、離れていってしまったのだ、とも……な」


「そうか……」

 藤田は大きく息を吐き、機械を隅々まで見て回った。健二も目を輝かせ、藤田のあとをついて回った。そして、時折、二人で話し込み、機械の様子を見て回った。

「写真を撮ってもいいかな?」

「お前たちの機械でこの様子を絵に残すってことだよな。持ち出さなければかまわぬ」

 サルタヒコは健二に言った。


 俺はサルタヒコたちから目を離すと、周りを見回した。よく見ると、機械の下にも様々な道具のようなものがあった。それらは、杯(さかずき)のようなもの、先ほど見た丸い鏡のようなもの、棒を組み合わせたようなもの、大きな巻き貝のようなものなど、多種多様であった。

 山田はそれらを熱心に見ていた。先ほど手に取ってサルタヒコに怒られたからだろうが、離れて見ている。


 アメノウズメはその様子を離れて見ていた。

「この道具は一体何なのだ?」

 俺はアメノウズメに訊ねた。

「さてな。私も詳しくは知らぬのだ……」

 アメノウズメはそう言って微笑んだ。


「ふうん……」

 俺は辺りを見回していて、部屋の奥、機械の裏の方に何か別のものが置かれていることに気づいた。

「あれは何だ!?」

 俺が見つけたのと同時に健二も気づいたようで、健二の声が向こうから聞こえてきた。

 一緒にその場所に行く。


 藤田と健二、そして俺がそこに歩いて行くと、後ろからアメノウズメとサルタヒコも来た。

 そこには見たこともない何かが、二つあった。

「こいつは何だ……?」

 俺が呟くと、

「まるで飛行機だな。羽が小さすぎるが……」

 藤田が言った。

 楕円形の卵のような形で、短い羽が生えている。


「これは、機械と同じ材質だな……だけど、機体後部にはエンジンらしきものは何もないですよ」

 健二が機体を撫でながら言った。

「そもそも、空を飛ぶための揚力を生み出すには羽も小さすぎる……」

 藤田が頷きながら言う。


 上には透明な殻のような部品があり、跳ね上がっているのが見える。

 俺がため息をつき、首を傾げていると、

「これは、アメノトリフネじゃ」

 と、アメノウズメが言った。

「アメノトリフネ……?」

 俺たちはアメノウズメとサルタヒコを見て呟いた。 

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