第8話 神気の影響
高天原から帰ってすぐ、健二とトヨタマは祝言をあげた。式は、健二の住む研究室棟の向かいの広場で行われ、一緒にタイムスリップした仲間たちを中心に、その関係者が招かれた。もちろん、父親やオモヒカネたちをはじめ、サルタヒコやキハチも招かれた。
祝言に招かれた人々には事情を明かし、トヨタマが高天原から来たことも伝えられたが、そのことでトヨタマのことを差別したり恐れたりする者はいなかった。むしろ、皆、高天原のことについて興味津々であるというのが本当のところだったようだ。
酔っ払ってくると、サルタヒコに連れて行けというものが続出した。他にもトヨタマのことが美しいだとか、健二がうらやましいだとかいう者も続出したが、健二の人柄のおかげなのかそれ以上場が荒れることもなく、祝言は温かい雰囲気のうちに終わった。トヨタマはこうして健二の妻になるとともに、我々の仲間になったのだった。
俺は高天原から帰ってきてすぐに、自分の体が変化していることに気がついた。五感が異常に鋭くなっていて、そのためか気を感じる能力までもが強くなっていたのだ。
あわせて、神気を降ろすこともできるようになっていた。毎日、一通りの武術の動きを反復練習するのだが、その際に行う気を溜め、循環させる呼吸――。その一連の動作の中で、神界をイメージするだけで神気を降ろすことができるようになっていたのだ。
神界の場所を体が覚え、簡単に繋がれるようになったと言えばいいのか。いずれにしても、莫大な力を持つ神気を降ろすことができるようになり、武術家としての能力は格段に上がっていた。
このことを藤田と健二に話したら、それは脳が活性化したせいなのかもしれないと言われた。彼らも五感が鋭くなったのだが、そのことより一番実感しているのは、頭が良くなったことだと言うのだ。過去の研究でよく分からなかった原因が、突然閃いて分かったり、新しい公式を考えついたりしているそうで、その現象が二人そろって起きているとのことだった。
俺の体に起こっている変化と健二たちの変化は異なるが、おそらくそれは自分たちが力を入れてきたことの違いによるものだろうと俺は思っていた。そして、原因は、高天原の濃密な神気が影響しているに違いなかった。
高天原から帰ってきて三月後。もっと驚くべき事が起こった。
トヨタマの腹がみるみるうちに大きくなり、子どもが生まれそうになったのだ。
「
健二が困った顔で相談してきた。
「どうしようもなにも、子どもが生まれるには早すぎるぞ。それは本当にお前の子なのか? 妊娠してから生まれるまで、本来十か月はかかるものだぞ」
「ああ。ひょっとすると、スサノオ様の子ということもありうるかもとも一瞬、思ったよ。恥ずかしい話だがな。だが、おれは違う可能性を考えている」
「何だ、それは?」
「神気だ。俺たちの脳が活性化し、武に至っては凄まじく強くなってしまってるんだろ? それなら子どもが早く育つなんてこともあってもおかしくないじゃないか」
「ああ、確かにそうだな」
俺と健二はそう結論づけたが、周りの人間はいろいろな憶測を言った。特に、スサノオの愛人だったんじゃないかという噂は中々消えなかった。
だが、ある日を境に、その噂もピタリと消えた。アメノウズメが神降ろしをしたのだ。
それは、アマテラスがアメノウズメの口を借りて、直接話をするという儀式だった。
本当に久しぶりの神降ろしの儀ということで、たくさんの人々が参加した。その場で、アマテラスははっきりと噂を否定し、生まれてくる子どもは二人の愛の結晶であることを話したのだった。
それから二週間後。子どもが生まれた。普通の人間の約三倍の速さで生まれた計算だった。
子どもには、ミケヌノミコトという名が付けられた。本来、神話に沿えばホデリノミコトの子どもの子の名前なのだが、健二がこれがいいと言って譲らなかったのだった。
健二の父親であるニニギノミコト、いや
俺自身も、血が繋がっていないのにもかかわらず、健二の子どもが可愛くてしょうがなかった。そして、皆で可愛がって育てたのだった。
不思議なことにミケヌは育つのも三倍の速度で育った。一年で普通の子どもの三歳の大きさになったのだ。
そして、また子どもが生まれた。今度も妊娠して三か月と少しで生まれたのだった。名前はやはり神話に基づいてワカミケヌと名付けられ、育つのもミケヌと同様に三倍の速度だった。
ミケヌが生まれて三年後。ミケヌは九歳、ワカミケヌは六歳の大きさになっていた。知能もその年齢の子たちと比較して遜色が無いほどになっていた。しかし、その頃から育つ速度は普通になっていった。神気のパワーが無くなったのかもしれないが、これで普通の人間として育てられると、周りの人間はほっとしていた。
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