ツンデレ美少女は白魔導士でした
助けた美少女は、まさかのツンデレ属性だった。
「大体、キノコのモンスターに近付いて攻撃するのがおかしいのよ! 痺れ粉を出すのなんて常識でしょう!?」
美少女はぷりぷりと怒りながら文句を言っている。
なるほど、だから美少女は風の魔法を使っていたのか。威力が弱過ぎて痺れ粉くらいしか吹き飛ばせていなかったけど。
……ツンデレって二次元限定で萌えると思っていたけど、美少女ならアリだね。
というか、なんか一生懸命ツンツンしていて微笑ましい。
「知らなかったんだ。教えてくれてありがとう」
にっこりと微笑めば、美少女は目を丸くして、さっと顔を背けた。
「っ……、ひ、一つ賢くなったわね! 仕方ないから人狼の痺れも治してあげるわ!」
そう言って美少女はそそくさとヨルドに近付いた。
……ちゃんとツンだけじゃなくてデレもきた! 正真正銘のツンデレ美少女だ!
生のツンデレ美少女を見れたことに大興奮の私には気付かないまま、美少女は地面に寝たままのヨルドに合わせて屈み、その背にそっと触れた。
「ティオ」
美少女が呪文を呟くと、キラキラとした光がヨルドを包み込む。とても魔法っぽい。
美少女が魔法を行使する様を見ていたライネルは、感嘆の声をもらした。
「ほう、白魔道士か……」
「白魔道士……」
って、確か回復系だった気がする。少ないゲーム知識で間違っているかもしれないけど。
……あれ? もしそれが合っているなら、この美少女、実はすごい子なのでは?
光がヨルドの周りから消えると、ヨルドはがばりと起き上がった。
「……あ、しゃべれル」
「当然よ。私はすごいんだから」
ふふんと笑う美少女。
こんなに簡単に状態異常を治すのだから、確かにすごい子なんだろう。
「ヨルドを助けてくれてありがとう。えーと……」
「マリアよ」
「そう。ありがとう、マリア」
「ありがとナ!」
名前を呼んで礼をすれば、マリアはぼん! と顔を赤くした。眉を下げて、口元が緩んで、なんとも情けない顔を必死に誤魔化そうとしている。明らかに狼狽していて、可愛らしい。
……もしや、褒められ慣れていない?
「マリア?」
顔を覗きこむようにマリアに近付けば、びくりと大きく体を跳ねさせた。
「う……、べ、別に! 借りを作りたくなかっただけよ! 私を助けたせいで、とか言われたくないからね!」
……ツンデレって、思った以上に難儀な性格なのかもしれない。
「なんだコイツ……」
「ヨルド、しっ」
大人なライネルは苦笑をもらしているだけだったけど、ヨルドには不評なようだった。
私もリアルなツンデレの良さは今気付いたくらいだからな。勇者の姿でツンデレの良さをヨルドに語るなんて悪魔に爆笑されながら止められそうだからやらないけど。
助けてもらったとはいえ好きになれそうにないと鼻に皺を寄せるヨルド。その皺を伸ばすように撫でていると、何かを言おうと口をぱくぱくしていたマリアが意を決したように口を開いた。
「……ねえ、なんだか不思議なメンバーだけど、どこに向かってるの?」
マリアの疑問も最もだ。メンバーの中に人狼がいる時点で普通の旅ではないと思われるのも仕方がない。私でも気になると思う。
けど、説明するのも面倒だし、魔王討伐の旅だなんてバレたくない。さて、なんて言おうかな。
『俺は勇者だから、魔王を倒しに行くんだ!』
……まあ、そう上手くは行かないのは分かっていたけどね。
「ゆうしゃ……って、はあ!? その程度の強さで勇者!?」
確かに弱いけども。私だって名乗りたくて名乗ってるわけじゃないんだよ。
『確かにまだまだ魔王を倒せるほど強いとは言えない。けど、魔王を倒すのは俺なんだ。だから、これからもっと修行して強くなるさ!』
「へっ! 勇者は弱くねーヨ!」
なあ? とヨルドは私に同意を求めてくるけど、弱いのは自覚している。むしろ、今まで他の人たちを誤魔化せていたのが不思議なくらいだ。
マリアはあり得ないと叫んだ。
「弱いでしょ! ま、あなたもレベルの差が分からない程度の弱者だものね」
「ハアっ!? オマエなんかオレたちに助けられたくせニ!」
「真っ先にキノコなんかにやられたアンタに言われたくないわよ!」
「やめないか二人とも!」
ぎゃんぎゃんと言い合う二人はライネルの一喝で口を噤んだ。
ヨルドはぐるる、とマリアに威嚇をして納得していないことをアピールしている。
そんなヨルドには目もくれず、なぜかマリアは私に視線をやると、気まずそうに逸らした。
「と、とにかく、そんなんで魔王に挑むだなんて死にに行くようなものでしょう」
「……でも、俺がやらなきゃいけないことだから」
魔王に苦しめられた二人が仲間になったから少しはやる気になってきたけど、魔王討伐なんてやりたくないって気持ちは今でも変わらない。でも、やらなきゃ悪魔によって何をされるか分からないから。
苦しむ未来の私を助けるために、今の私がやるしかないんだ。
「苦しんでいる人を助けるために、俺がやるしかないんだ」
「……そう」
俯いたマリアは何を考えているのかまるで見当もつかない。
この子も魔王によって何かがあったのだろうか。こんな所で一人でいるのだ。何か理由があってもおかしくない。
慰めたくて私より低い位置にある頭を撫でたい衝動に駆られるけど、この姿でやればセクハラもいいところだもんね。我慢、我慢。
「っ、あの……」
「もういいだロ? さっさと行こうゼ」
ヨルドは面倒臭いと言わんばかりに鼻を鳴らした。
そういえば突然のツンデレ美少女との邂逅で頭から消え去ってしまったけど、私たちは怪しい建物を探しに来たんだった。
……あれ? 今、マリアは何かを言おうとしていなかった?
「えっと、マリア……」
「なんでもないわよ!」
ええ……。小さい声だったけど、確かに聞こえた気がしたんだけどな。でも、この様子では同じ言葉しか返ってこないだろう。
「……そっか。俺たちは目的地があるんだけど、マリアはこれからどうする予定なんだ?」
「……っ、あ、あなたに心配される謂れはないわ!」
「だとヨ。行こうゼ」
え? ヨルドは置いて行く気満々じゃないか。明らかにモンスターに対抗する術がなさそうなのにこのまま置いていくの?
マリアはツンデレしているだけで、本心で置いていってほしいとは思っていないはず。
ライネルに視線を向けると、困ったように口角を下げられた。
「俺たちと行動を共にするのも危険だろう。ここを真っ直ぐに進めば人の通る道になる。そこまで付き添って、別れるのがいいんじゃないか?」
「い、いらないわ! 今までだって一人でやってきたもの!」
……なんか、意地になってる?
「ほら! 早く行きなさいよ! 私は一人で平気なんだから!」
平気な子はこんなに必死に言わないだろうに。
でも、この様子では説得も何もできないだろう。心配だから途中までは付き添いたかったんだけど、今まで無事に歩いてきたっていうのも本当なんだろうし、ここはマリアを信じるしかない。
「分かった。君を信じるよ。……でも、次に会った時は仲良くしてほしいな」
ツンデレ美少女は目の保養になるからね。
にっこりと微笑んでみせたけど、マリアはふい、と後ろを向いてしまった。
「ほら、勇者、行こうゼ」
「気をつけるんだぞ」
「マリア、またな」
結局マリアは背を向けたままだったけど、ヨルドに促されるままその場を去ることになった。
磁石で方角を確認して、またライネルの先導で森を歩き始める。ちらりと振り返ったけど、やはりマリアは付いてきてはいなかった。
……やっぱり、少し可哀相なことをした気がする。
ヨルドに視線をやれば、変わらず不機嫌そうに鼻に皺を寄せていた。
「ヨルド、ちょっと酷かったんじゃないか?」
「ハア? 酷いのはあの女だロ。勇者に酷いことばっかり言いやがっテ!」
「……まあ、言葉通り受け取ったらそうなるか」
よしよしと少し背伸びをして頭を撫でる。ヨルドの鼻の上の皺はなくなった。
「人間はいつもああやって叫ぶから嫌いダ。……勇者とおっさんは別だけどナ」
「ヨルド……」
「ありがとう」
そう言ってライネルもヨルドの頭を撫でた。
ヨルドは先程までの不機嫌さはどこへやら、嬉しそうに笑う。
その無邪気な笑顔にライネルは苦笑をもらした。
「お前の気持ちは否定しない。だがな、見えたものだけに惑わされるな。俺たち以外にもお前を受け入れる人間がいることは覚えておけよ」
「……難しいことはわかんねーヨ」
マリアとはまた会えるかは分からないけど、次に会うときがあればヨルドにツンデレというものを教えるしかないかな……。
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