美少女を発見しました

 燻製など旅の準備に時間がかかり、ライネルの家で昼食までを過ごしてから出発となった。

 私は急いでないからゆっくりできてよかったけど、ライネルは怪しい建物が気になっている様子で、作ってくれたご飯は昨晩より簡単なものだった。作ってくれただけありがたくて、ヨルドと取り合いながらたくさん食べたけど。


 ……燻製を作るように言ったのはライネルとはいえ、時間をかけすぎたかもしれない。


 昼食を済ませたあとは、暫く戻ってこられない家に別れを告げ、ライネルの先導で怪しい建物がある場所へと向かうことになった。

 私は元々、魔王の元へ行くのではなくレベル上げを目的としてプロートン村を出た。そのため特に理由もなく適当に東に向かって歩いていたのだけど、実は東に魔王の城があるとライネルは教えてくれた。そして突然出没した怪しい建物はちょうど良いのか悪いのか、ライネルの村から東の場所だった。


 魔王の元へはゆっくり行きたかったから適当に歩いていたはずなのに、近付いていただなんて微塵も思っていなかったよ……。


 ライネルは以前より村に来る商人から他所の村や魔王の情報など色々と話を聞いていたようで、勇者のくせに魔王の情報を持っていない私に驚愕していた。結局ライネルの村には行けなかったから推測でしかないけど、話を聞く限り商人の来る頻度も高そうだし、ライネルの村はプロートン村やトルポ村より栄えているからの情報量だと思っている。

 ライネルには、大きい町に行ってから魔王の情報を集めるつもりだったと言い訳しておいた。


 商人がライネルの村に来た道は、整備こそされてはいないけどきちんと人が通れる開けた道らしい。怪しい建物があったのもその通りだと話していたそうだ。

 けれど、ライネルは森の道を通って建物へと向かっている。それはヨルドのためなのだと思う。村にも入らない方が良いと言ってくれる人だ。なるべく人の目に触れないようにと配慮したのだろう。


 そんな気遣いを受けているヨルドはどこを歩いているなどまるで気にした様子はなく、食べられそうな物を採りながら楽しそうに歩いている。

 ヨルドは木苺のような物を採って袋に入れていると、ふいに顔を上げた。


「なあ、その変な建物まではどれくらいで着くんダ?」

「二日はかからないと言っていたな」

「ふーん、すぐ宝を探せるわけじゃないのカ」

「宝があると決まったわけじゃないからな?」


 ヨルドの中では宝があると確定しているみたいだ。それとも本当に宝があると感じているのだろうか。私は嫌な予感しかしないんだけど、宝があるなら大喜びだよ。


「夜の森は危険だから、明るいうちになるべく進みたい。二人とも、体力は問題ないか?」

「オレは平気ダ」


 ライネルの問いにヨルドは胸を張って答えた。

 私も体力値は大分上昇していると思う。まだ数値では確認していないけど、モンスターとの戦闘で息切れするまでの時間が延びている気がするのだ。


「大丈夫。辛くなったら言うさ」

「ああ。無理をする必要はないからな」


 もちろん、無理をするつもりはない。いくら少し体力が付いてきたからと言って、体格の良いライネルと人狼であるヨルドと、ゴミみたいなレベルの私の体力は比べられないと思っているからね。

 ライネルに頷いて返した。




   ◆




 昨日はなんとか体力が持った状態で夜を迎え、更には特にモンスターに襲われることもなく無事に夜を過ごすことができた。

 また野宿に戻ってしまって一昨日のライネルの家が恋しくなったけど、仕方がないよね。


 ああ、せめて屋根のあるところで寝てお風呂には毎日入りたいよ……。


 ライネルに朝食を作ってもらっている間に塩漬けしていた燻製用の魚の塩抜きをして、乾燥させるためにライネルお手製の取っ手を付けた三段のざるのカゴに乗せていく。


 ……これ、持ち運ぶの邪魔だな。


「乾燥するまでこのままか……」

「燻製にしてしまえばしまっていられるんだがな。俺が持つから安心しろ」


 ライネルはヨルドによって、どんどんとざるの上に置かれていく魚たちを見て苦笑をもらした。


 持ってくれるのはありがたいけど……。


「いいのか?」

「木刀で戦う勇者の片手を塞ぎたくはないからな」


 ……なるほど。確かに、傍から見たら勇者が一番戦闘に特化しているはずだから、そうすることが最善だろう。まあ、私の見立てだと私が一番弱そうなんだけど。


 ざるを持っているからと言ってライネルが戦闘に参加しないわけではないし、ありがたく頼もう。そして朝食もありがたくいただきます。




 朝食も済めば、また歩き始める。怪しい建物まで二日はかからないとの情報なら、遅ければ着くのは明日の可能性もある。無理せず自分の体力と相談しながら歩こう。

 建物の確認が終わればまたレベル上げの日々に戻らなくてはならないからね。


 そうして歩いていると、ヨルドがぴくりと反応した。


「モンスターの臭いダ。あと、人の臭い」

「音は聞こえないけど、戦っているのか?」

「この汗の臭いなら、多分戦ってル。モンスターの数は多そうだゾ」


 汗の臭いで分かるの!? 人狼の嗅覚が恐ろしい……。


 しかし、嫌なことを聞いた。聞かなければ関わらずにいられたのに。

 ライネルに視線を向ければ、しっかりと頷かれた。


「加勢しよう」

「……ヨルド、案内できる?」

「任せロ!」


 走り出したヨルドとライネルに置いて行かれないよう、必死に足を動かす。目的地は戦闘音が聞こえないくらいには遠いはず。


 ……辿り着く前にHPが無くなりそうっ!


 ライネルなんかは平積みされた魚を乗せたざるを持っているにも関わらず、ヨルドのスピードについて行っている。

 私はなんとか見失わない程度なのに。息も絶え絶えです。


「見つけタ!」

「っ、状況は!?」


 私からはまだ見えないため、ヨルドに声を張り上げる。ヨルドは走りながら叫んだ。


「でっかいキノコがたくさん! 女が一人囲まれてル!」

「キノコ? どんな攻撃をしてくるか分からないけど、出来る範囲でキノコを倒せ!」

「わかっタ!」

「了解」


 返事と同時にヨルドとライネルは現場に着いたようで戦闘に参加する音が聞こえた。

 私はそれに少し遅れて辿り着く。そこには、確かに大きなキノコがたくさんいた。大きさは大人の腰程度。色とりどりの傘をして、柄は太めで顔が付いている。エリンギに見えるけど、エリンギよりは傘が大きい気がするよく分からないキノコだ。


 私が到着した時には既に二人が何体も倒していたのに、そこにはまだ大量にキノコのモンスターが存在していた。


 そして、ヨルドの言う通り女の子が一人、必死にキノコのモンスターと戦っていた。


 ……いや、二人のうちどっちでもいいから女の子の方に行ってあげようよ!?


「フレイム!」


 ライネルに教えてもらった呪文を唱えながらキノコのモンスターに木刀を振り下ろす。呪文に反応した木刀は炎を出し、キノコのモンスターを燃やした。

 炎に包まれて消滅したキノコを目の当たりにした女の子は、驚愕の表情のままこちらに顔を向けた。


 ……美少女だ。しかも、儚そうな守ってあげたくなるタイプの顔。


 これは俄然やる気がでた。美少女の損失は世界の損失。キノコ狩りに勤しみましょう。


「はああっ!」

「おりゃあああ!」

「はっ!」


 ヨルドはキノコのモンスターを爪で切り裂き、ライネルは手製の爆弾のような物を投げてキノコを燃やしている。私は美少女に攻撃をしそうなキノコのモンスターを木刀で殴ったり燃やしたりして倒していた。

 そんな中、美少女はなにやら呪文を呟いていた。


「アウラ!」


 呪文で風が吹き、それがキノコのモンスターに当たる。けれど倒すほどの威力はないらしく、モンスターの数は変わっていない。


 ……なるほど、だから囲まれていたのか。


 ならば美少女に攻撃がいかないように頑張らなくちゃ。


「はあああっ! フレイム!」


 それぞれが自身の武器でキノコのモンスターを倒していく。

 キノコのモンスターは大きさの割に簡単に倒せるし、大した反撃が見られないから油断をしていたのかもしれない。


「うぐ……っ!」


 突然、ヨルドが悲鳴を上げた。


「ヨルド!?」


 まさか攻撃を受けた!?


「し、しび……」


 崩れ落ちたヨルド。キノコのモンスターに囲まれた場所なのに、全く起き上がれそうにない。

 慌ててヨルドの元へ行こうとしたら、美少女に腕を掴まれて止められた。


「な……っ」

「モンスターの攻撃で痺れているだけよ! 先にモンスターを倒さなくちゃ意味がないわ!」


 儚そうな美少女の口から想像していなかった大声が出て、思わず顔を凝視してしまった。


 ……うん。変わらず可愛い顔だわ。って、顔はどうでもいい。今はヨルドのために、美少女の言う通りにしよう。


「そ、そうだな……。待ってろヨルド!」


 キノコのモンスターの数は確実に減っている。あと少し、ヨルドのためにも急ごう。





「はあ……やっと全部、倒したか……?」

「そのようだな……」


 漸くキノコのモンスターを倒しきった時には、ライネルですら呼吸が荒くなっていた。

 ヨルドは痺れて地面に転がったままだ。舌も動かないらしく、一言も喋らず地面に伏している。でも苦しそうではないし、呼吸の乱れも見えない。美少女の言う通り毒ではなさそうで良かった。


 美少女にも視線をやる。肩で息をして服は汚れているけど、見る限りでは大きな怪我はなさそう。

 ヨルドが臭いを嗅ぎつけた時には既に戦闘中だったし、ここに着いたときにはモンスターに囲まれていたから心配だったのだ。


「大丈夫だった?」


 疲れた表情をしていた美少女は私の声にはっと表情を変え、次にはふい、と顔を背けた。


 ……あれ?


「べ、別にあんたが手を出さなくても、私だけでなんとかなったんだからね!……まあ、助かったけど」


 ……つ、ツンデレ!?


 まさかの属性に、咄嗟に言葉は出なかった。

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