旅支度をします
ライネルが仲間になった。
不本意だけど、村を出てから順調に勇者らしく仲間を集めている。
不思議なのはムカつくほどにこんなにも簡単に仲間が増えていく世界で、なんで元の勇者はソロで魔王に挑んだのか。
仲間が増えるのが悪魔のせいなのか、私のせいなのか。それとも増えなかったのが元の勇者のせいなのか。理由なんて考えてもどうしようもないけど。
本当は何もしたくないし、できるなら今からでも引きこもりになりたい。これからどうしていくことが正解なのかも分からない。けれど悪魔がいる限り、魔王討伐の旅を続けるしか道はないのだ。
と、まあ色々考えることもあるし文句もあるけど、今考えることではない。なんせ今夜は久々にゆっくりできるのだから。
ライネルのお家、万歳!
「久しぶりに屋根のあるところで眠れるよ……」
思わず漏れた声に、夕食の支度をしてくれているライネルは苦笑をもらした。
「村と村は遠いからな。必然的に野宿ばかりになるのか」
「ああ。ライネルも明日から覚悟してくれ。……旅立つ前日なのに、泊めてもらって悪いな」
「構わん。これから一緒に旅をする仲間だ」
ライネルはなんでもないようにふっ、と笑った。
優しい……。さすがイケオジ。
なんだかこの世界に来て初めてまともな人に会えた気がする。
勇者を旅に追い出す人達は論外だし、自称情報屋は怪しさ満点だったし、ヨルドはワンコだし。
あれ? ライネル……素晴らしい仲間じゃないか? ご飯まで作れるんだよ?
ライネルのありがたみを実感していると、夕食のスープをかき混ぜていたライネルがそうだ、と声をあげた。
「明日、ここを出る前に村に寄ってもいいか? 暫く家を空けることを伝えたい」
それは確かに言わないといけないね。
今まで村に買い物に来ていたライネルが突然来なくなれば、モンスターの出没する森に住んでいることからも死んだと誤解されるだろう。
「もちろん構わない」
「感謝する」
……そうか、ライネルは村に行くのか。
ヨルドのことで村に行くのは諦めていたんだけど、少しくらい、我儘を言ってもいいだろうか。
「……一つ聞きたいんだけど、村に風呂屋はあるか?」
勇気を出した私の問いに、ライネルは何を言っているんだとばかりに首を傾げた。
「村に? もちろんあるが……ここにもあるぞ」
……え。
「マジでっ!?」
私の突然の大きな声に、暇そうにテーブルに頭をつけて食事が出来るのを待っていたヨルドがびくりと体を跳ねさせた。
だって、風呂が、風呂がここにあるって……!
「あ、ああ。俺が作った物だから小さいが」
「サイズなんか気にしない! ぜひ! 入らせてくれ!」
「すごい勢いだな……。まあ、旅をしていればそうそう風呂には入れないだろうしな。好きなだけ入ればいい」
「ありがとう! 本当にありがとう!」
ライネルに飛びつく勢いで感謝の意を示したら、やんわりと押し返された。男に抱きつかれたくないよね、ごめんね! でもこの興奮は治まらないよ!
そんな私の様子が分かったのだろう、ライネルは苦笑をもらした。
「まだ夕食までは時間がかかる。風呂は家の裏にあるから、近くの川から水を汲んどいてくれ」
「わかった! ヨルドも行くぞ!」
「はっ!? わ、分かっタ……?」
ヨルドは困惑しているけど構っていられない。
まずは浴槽の大きさを確認して……。ライネルは大きいから、あのサイズが浸かれる程度の大きさはあるはずだ。何往復で水が溜まるだろう。ああ、お風呂だ。お風呂だ!
ヨルドの腕を引っ張って、ライネルの家を飛び出した。
◆
昨日は良いお湯でした。
満足です。ほくほくです。
まさか個人宅なのにあんなに立派なお風呂があるとは思ってもいなかった。
ライネルの家の裏にあった風呂は、きちんと小屋になっていた。水を運ぶために外側にも扉はあるけど、家から風呂場に通じる扉もあった。つまり実際に入浴するときは家から直接風呂場へ行けるのだ。
浴槽だけでなく洗い場もきちんとスペースがあり、一人用のお風呂にしては広々としていた。さすが大工。中途半端な仕事はしていません。実に素晴らしいお風呂だ。
窯に薪をくべてお湯の温度を調節するのも、元の世界ではなかなか出来ない体験で楽しかった。そうして自分で育てたお湯に浸かるのも至福の時でした。
いつまで入っているのかとヨルドに怒られたけど、仕方ないよね。久しぶりのお風呂だったんだから。
朝になっても変わらず上機嫌の私にライネルは慣れたのか、何を言っても変わらないと思ったのか、黙々と出かける準備をして玄関の扉を開けた。
「じゃあ、旅に必要そうな物も買ってくる」
「ああ、頼んだ」
村に向かったライネルを見送り、私たちも家を出た。ライネルがいない間、私たちは食料の確保を行うのだ。魚を獲って燻製にしたり、果物を採ったりする。
実はライネルに、次はいつ村に寄れるか分からないため、持てる食料は持っていった方がいいと言われたのだ。
確かに体格の良い男であるライネルは食事量も多いだろう。今までのような行き当たりばったりでは満足に食事がとれない日がでてしまってもおかしくない。なら、どうせなら保存のきく燻製を作ろうということになったのだ。
まあ、今日一日で作り終わるものでもないため、今日は塩漬けした魚を持ち運ぶことになるのだが。
ちなみに燻製の作り方はライネルから教わった。そんなことまで知っているなんてさすがライネルである。
昨日ライネルに作ってもらった木刀をさげて、ヨルドと森を歩く。本当なら二手に分かれた方が効率は良いのだろうけど、また虫系のモンスターに襲われたら嫌だから適当に理由をつけてヨルドと二人で行動をしている。ちょろ……ではなく、ヨルドは良い子だ。
昨日お風呂の水を汲んだ川に着けば、ヨルドはやる気に満ち溢れた顔を私に向けた。
「魚はヨルドに任せていいか?」
「ああ。得意ダ!」
ヨルドは待ってましたとばかりに川に入っていった。
川はヨルドの太腿程度の水嵩だった。体を屈めたヨルドはじっと水面を覗きこみ、タイミングを見計らって腕を川の中に入れ、魚を掬うように獲った。
「おお……」
得意と言うだけある。川岸に落ちてくる魚たちは傷一つなくピチピチと跳ねている。
魚は安心してヨルドに任せて、私は果物を採ろう。
採り始めて暫く、旅に持っていける程度は採取ができた。あまり採り過ぎても荷物になるだけだし、これくらいあれば大丈夫だろう。
「ヨルド、そろそろ戻ろうか」
「分かっタ」
獲った魚を締めて血抜きまで終わらせていたヨルドと共にライネルの家へと戻る。家に着けば、既にライネルは戻ってきていた。
「あれ? おかえり、ライネル。もう少し村でゆっくりしてくるかと思ったんだけど」
「ああ、少し気になる話を聞いてな……」
「気になる話?」
なんだか嫌な予感がする。聞きたくないんだけど。
そんな私の思いは通じず、ライネルはヨルドから受け取った魚の処理をしながら話し始めた。
「たまたま商人が村に来ていてな。その商人から聞いたんだが、この村に来る途中、変な建物が増えていたのを見つけたらしい。そいつは不審に思って近付かなかったから、それが何なのかは分からないそうだ」
「建物が、増える……?」
「建物は増えねーだロ」
「いや、今まで何もなかった土地に突然増えたんだと。それも普通の建物じゃなく、見た目は黒いでかい箱らしい」
うわぁ……。嫌な予感的中だよ。絶対普通の建物じゃないよね。
頬が引き攣る。この後の展開が読めてしまった。
「旅の道筋であれば様子を見に行きたいんだが、どうだ?」
そりゃあ、そんな怪しさ満点の建物を放置なんて出来ないよね。勇者なら。勇者御一行なら。私は全く関わりたくないんだけど、悪魔のあの顔を見れば逃れられないのは分かってるよ。
「どんな影響があるか分からないからな。確認しに行こう」
「勇者ならそう言ってくれると思っていた」
ほっと息を吐いたライネル。村から離れようってときにそんな話を聞いたら気が気じゃなかっただろうね。
「黒い箱カ……お宝とかあんのかナ?」
ヨルドの尻尾がぶんぶんと振れていた。傍から見て分かるほどワクワクしている。
ここ掘れわんわんかな?
「宝、あればいいなあ」
「いや、それはないだろ……」
私もそう思うけどね。でも、嫌だと足掻くことも許されず行かなくてはならないのなら、少しでも楽しみを持てる方がいいじゃないか。……落差に落ち込むかもしれないけど。
なんでもないことを祈って、さっさと建物を通り過ぎようっと。
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