05 全力疾走の琴音さん

 部活動対抗リレー、第二レースに出場するのは吹奏楽部、茶華道部、写真部、美術部、文芸部、応援団です。

 第一走者はスタート位置に着いてください。

 オンユアマークス。セット。


 パアンッ。


 スタートダッシュに成功したのは吹奏楽部です。毎朝の走り込みの賜物かもしれません。


 応援団は、黒い学ランを着たまま走っています。今日の天気は快晴。黒色は、太陽の熱を吸収しているはずです。暑くはないのでしょうか。


 おおっと。三位を狙う部活動は、激しい争いになっていますね。カメラ、ひまわり、スケッチブックと、部活らしいアイテムを持った集団がお団子状態になっています。


 その後ろからは、文芸部が必死に追いかけています。左手には短冊を、右手にはペンを持っています。走りきるまでに、短歌あるいは俳句を詠むことができるのか注目です。文芸部、頑張ってください。


 吹奏楽部は、第三走者にバトンが渡っています。写真部と応援団も、後に続きます。今のところ、吹奏楽部がリードを保っていますが、次のアンカーが順位をひっくり返すかもしれません。応援団長の黒坂琴音さんは、勝利の女神その人ですから。

 どんなに負けていたとしても、応援団長がいればチームに勝利をもたらしてくれる。味方にとって、かなり頼りになる存在でしょう。


 上位チームばかり実況していましたが、ここで文芸部が順位を上げてきました。四位との差はまだまだ開いていますが、終盤のどんでん返しはあるのでしょうか。


 吹奏楽部のバトンは、いよいよアンカーに回りました。一位を守る吹奏楽部の脚力は、凄いですね。


 暫定二位は応援団です。一位との差を覆せるか、最後まで目が離せません。紅のタスキをたなびかせ、応援団長の黒坂さんがバトンを受け取りました。


 吹奏楽部が築き上げたリードが、見る見るうちに減ってきています。黒坂さんの重心がぶれない走りは、まるでプロの陸上選手の走りを見ているかのようです。

 リレー前に、黒坂さんは言っていました。自分は徒競走よりマラソンの方が好きだと。それでも、みんなが繋いでくれたバトンで、ゴールテープを切る光景を見たい。自分も見てみたいのだと、放送部のインタビューで話してくれました。


 吹奏楽部のアンカー、早いです。しかし、応援団の学ランがすぐ後ろに迫ってきました。ゴールに近い観客が、声を上げました。顔中が汗まみれになっても、イケメン女子のオーラは衰えることを知りません。


 いよいよゴール目前です。最後の力を振り絞り、先にゴールしたのは応援団でした! 




 暑っ。今日のように晴れると、学ランが重りみたいに感じるよ。


 どうだった? ぼくの走りは。頑張って追い上げたんじゃないかな?


 もっと褒めて、褒めて。


 一位になったご褒美? いらないよ。そんなもの。ぼくは、みんなが楽しんでくれたら、ほかに何もいらないんだ。……屋上にいたとき、変な見栄を貼るんじゃなかったと後悔しているけどね。


 それよりも、きみの方が凄いじゃないか。お腹を痛めた後輩に変わって、急遽アンカーを代わってあげたんだろう?


 最下位からの三位。どんでん返し、大成功だな。きみ、前にインドア派って言っていたよね。あれは、嘘だったのかい? もしや敵を欺く作戦だった……? だとしたら、きみは諸葛孔明並の策士だな。


 一位じゃないと意味がない? きみ、いつから熱血キャラになったんだ? 


 フォークダンスの最初の相手は、ぼくがよかった?

 知らない人と踊るのは怖い?


 ふふっ。きみはリレーで一位になったら、フォークダンスの誘いをしようと思っていたんだね。いやいや、臆病とは思っていないよ。頑張って一位を獲ろうとしていたんだ。真剣なきみを、笑うつもりはない。ただ、やはり似た者同士だと思って。


 ぼくも断られるのが怖くて、言い出せなかったから。


 なぁ。ぼくにフォークダンスのエスコートをさせてくれないか? ステップを間違えても、きみが恥をかかないように修正してみせるよ。


 返事は?


 こちらこそよろしく頼む。じゃあ、はぐれないように手を繋がせてくれ。照れるなよ。これがきみの言う、合法的なスキンシップなんだろう?

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