体育祭の琴音さん

04 屋上の琴音さん

 全ての出場者のー、健闘を祈ってー。

 フレー! フレー! にーしーこーおー! そーれ! フレッフレッ西高、フレッフレッ西高!


 うん。声の調子はバッチリだ。念のため、確認しておいて正解だったな。……おや、珍しいお客様だ。


 やぁ。騎馬戦は大変だったね。体操服が随分汚れている。


 きみはいつも、弁当をここで食べていたのかい? それなら、ドアを開けたら驚いただろう? いつもは屋上にいない人が、目の前にいるんだからな。


 悪いな。屋上を先に使わせてもらっていて。


 発声練習はもう終わりにする。だから、居心地が悪そうな顔をしないでくれ。きみは、何も悪いことをしていないだろう? 昼休みに弁当を食べることは、ごく普通のことじゃないか。たとえ体育祭の日の、お昼休憩だとしても。


 ひとりぼっちを笑うな?


 ごめんよ。侮辱するつもりはなかったんだ。実はぼくも、ここでよく昼ごはんを食べているんだ。似た者同士だと思って、嬉しくなっただけ。嫌な思いをさせて、すまなかった。


 何できみも謝るんだ? ぼくは傷ついていないから、顔をあげてくれよ。ついでに、猫背も直してほしいな。また、いつもの癖が出ているよ。


 もっと背筋を伸ばして。きみの猫背が治るまで、ぼくの手で押さえてあげる。ぼくは体温が高い方だから、ずっと触れられると暑いはずだ。


 背中に人間カイロをつけられた気分はどうだい? ぼくの手は熱くて、アイスクリームみたいに溶けてしまうだろう? 観念して猫背を治したまえよ。


 そうだ、もう少し背筋を伸ばしてもらえるか?


 うん、きみの顔が輝いて見えるよ。すごくいい。合法的にボディタッチされたおかげだって?

 そんなふうに言われると、反応に困るなぁ。喜ぶべき? にやにやしてないて、真面目に答えてよ。


 ぼくは、さっきまで何をしていたかって?  応援の練習だよ。午後の部活動対抗リレーに出場する人に、エールを送りたくてさ。

 部活動対抗リレーは、お昼休みが終わって最初に行う競技だからな。すぐにエールを届けられるように、準備していたんだ。


 応援団長だけが練習していいのか? ほかの団員が、さぼっていると思ったのかい?


 きみは優しいな。ぼくのことを心配してくれるなんて。


 大丈夫。応援団のチームワークはバッチリさ。一年生も声をしっかり出すようになったし。ただ、ぼく一人で練習したいときもあるんだよ。


 ただ……たまには、一人で練習したいときがあるんだよ。みんなと練習することも好きだが、一人で過ごす時間も好きなんだ。矛盾していると思うだろう? 応援団には協調性が大事なのに、自分勝手だよな。


 ふっ。きみはいつも、ぼくのほしい言葉をくれる。


 部活動対抗リレー、頑張れそうだ。文化部部門とは言え、アンカーは緊張していたんだ。吹奏楽部も、美術部も、茶華道部だって体力自慢の部員が揃っているからね。もちろん、きみのところの文芸部だってライバルだ。手を抜くつもりなんてない。


 じゃあ、ぼくは一足先にグラウンドへ戻っているよ。観客席で、ぼくの勇姿を見届けてくれ。もしも一位を取れたら、きみに……。


 いや、こういうやり方はよくないな。とにかく、ぼくの勇姿を見ていてほしい! 何がなんでもな!

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