第22話


 店の中は、がらんとしていて、薄暗く質素な雰囲気だった。ここで食事をすると考えただけで気が滅入ってしまう。


「どうして、僕と妻だけがあの村に漂着したんだろう」


「こっちがよかったか?」


 ヘルヴィムがテーブルに肘をつき、顎を載せて僕を見た。


「どうだろう。こっちに漂着した彼らは、様子がおかしかった。なんでだ?」


 ヘルヴィムは答える代わりに欠伸をした。


「なあ、たまには教えてくれても良いんじゃあないか。あんたに、あんた達って言ったほうが良いか? あんた達に不都合は無いだろう?」


 ヘルヴィムはニヤついた顔で僕を見る。


「君は面白いな。うん、面白い」


 食事は硬いパンとスープだけだった。スープも、ほとんど味がついていない。哲学者の村の食事が恋しい。調味料の偉大さを味わった。だから、他に客がいないのだろう。そもそも、こんなものしか出さないレストランが、生き残っていることのほうが不思議だ。


「人間の真似をしたい奇特なやつなんて、ほとんどいないのさ」


「何だって?」


 まるで僕の心の内を読んだみたいに、ヘルヴィムが言う。


「やっぱり、あんたらは天使……」


 ヘルヴィムは横を向いて、僕の言葉すら聞いていなかった。問いただしたところで、答える気もないのだろう。


 同じ島にいるのに、彼らは全く以て違う。食べているものも違えば、見た目も違う。文化も違えば性質も全然違う。エスキモーとマサイ族くらい違う。


「一体、何者なんだ、あんたらは」


 僕はぼやくように言った。もちろん、ヘルヴィムは答えてくれなかった。

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