第18話
「どうした、早く来い」
そう言って彼は扉を乱暴に開ける。扉を開ける音で、デカルトがびっくりしてこちらを振り返った。部屋から出ていこうとしているヘルヴィムを見て、飼い犬のように慌ててついていった。
全く想像していた展開と違うが、彼が説明してくれると言うなら僕もついていこう。
しかし、あの口ぶりだと、天使のことは知っているようだ。それなのに、どうしてこの島を出たいなどというのだろうか。この島にも天使の攻撃があるのだとしたら、あんなにみんながのんびりとしていられるはずがない。
洞窟の外に出ると、外は不気味に曇っていた。遠くの空に稲光が見える。
ヘルヴィムは、僕たちが来た方向とは逆方向へ歩き始めた。山に入るのだろうか。
「君はモノリスを知っているか」
モノリス――元は火山などによって、一枚の板のように出現した岩のことだ。しかし、天使が攻め入ってきた後の歴史では、地球外生命体による未知の物質による何らかの巨大な板のことである。
「知っているさ」
むしろ、ヘルヴィムがモノリスを知っているとは思わなかった。
「あれは、何のためにあると思う」
「さあな。今の所、それを解明した研究者はいないはずだが」
何を隠そう、僕自身もモノリスの謎には挑戦した研究者の一人である。サンプルを取るどころか、傷一つつかないそれに、僕は早々に諦めたのだった。
僕たちは山へ入る道に差し掛かった。今まで、一切の指標のようなものがなかったが、ここに来て初めて木の看板が立っていた。
『この先、入るべからず』
看板が僕たちに警告しているように感じた。
「さて、ここから少し道が悪くなるぞ。覚悟は良いか」
僕は頷く。ここまで来て帰るとは言えない。
チラとデカルトを見る。彼は子供とはいえ大柄である。足腰も強そうだが、危険な場所へ連れて行って、万が一のことがあるとあのルネという女の子に何を言われるかわからない。
「君は帰ったほうが良いんじゃないか」
デカルトは露骨に嫌がったが、ヘルヴィムが「帰ったほうが良い」と言うと、渋々村へ帰って行った。彼の素直なところはとても良い。ルネにもヘルヴィムにも、素直に従っている。
見上げると、なかなか険しい山道である。「よし」と声を出して、僕は覚悟を決めた。看板を超え、山道に一歩踏み入ると、立ちくらみがしてその場にへたり込んだ。
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