第10話
天気が良いので、外で村人と一緒にジョイントを吹かしていた。
「おい間抜け。いつまでブラブラしてるつもりだ。この穀潰し」
ソクラテスがやってきた。こいつは人の神経を逆なでする以外のことが出来ないのだろうか。
「あっちへ行けよ」
「何だと? 俺はなあ……あ」
こいつが絡んでくると、いつも面倒だ。今日もため息をついて、相手をするのが面倒だなと思っていたところ、やけに素直に引き下がっていった。
「体はどうだ」
村長がニコニコしながらやってきた。ソクラテスは村長の息子だった。恐らく、ブラブラしているのを視られると具合が悪いのだろう。古今東西、だめ息子というのは父親にだけは弱いものらしい。
「良いですよ。みんなに親切にしてもらいましたから。感謝しています」
村長はクシャッと笑顔になった。歯が少ないので顔がへこんだみたいに見える。彼は両手で腹を抱えて「ほうほうほう」と笑った。これは彼が楽しいときの笑い方らしい。
「それはよかった。元気になったのなら、一つアドバイスさせてくれ」
「なんですか」
わざわざ改まって、何を言うのかと構えた。僕の緊張が伝わったのか、村長の顔から笑顔が消え、たるんだ瞼を持ち上げて目を見開いた。それが、より一層僕を緊張させる。
「海には入らないように」
彼は指を立ててそれだけ言った。
「それだけですか」
「それだけ」
村長は茶目っ気たっぷりにウインクする。いつもの笑顔に戻った。この島から出て行けとか、そういうことを言われるのかと思って戦々恐々として損した。それでも、単純なことだったのでホッと吐息をついた。
「どうしてですか。こんなに美しい海なのに、入らないのはもったいない。それに、村の男達は入っていって漁をしているじゃないですか」
村長は笑顔のまま答えない。宗教的な問題で、異教徒に汚されたくないと言うことなのだろうか。こういった未開の地では、強いこだわりのある掟がある。それをないがしろにして、ここから追い出されるわけにはゆかない。
波の音が聞こえる。いつか、妻と海に行ったことがあることを思い出した。
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