第5話




 夢を見ている。時折、これは夢の中だとわかってしまうときがある。今が、まさにそうだ。


 僕はどこかの浜辺にいた。空は青くて、波の音が耳に心地よい。ずっとここにいたい。


 誰かが僕の名前を呼んだ。


 僕の名前。


 よく聞き取れないが、それが僕の名前だと言うことだけはわかる。


 振り返ると、眩しい笑顔の女の子。胸には黒猫を抱いている。その猫は見覚えがある。僕が飼っていた猫だ。


 僕は彼女に手を振る。


「今度こそ……」


 彼女はまだ少し遠くにいるはずなのに、耳元から彼女の声が聞こえる。


「今度こそ、幸せになってね」


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