第3話


 あの奇妙な薬を塗りたくられて一日寝ていたら、痛みはすっかり消えた。腫れていた指も、血が出ていた左足の腿も、傷跡さえなくなった。一体、何の薬なのかあとで教えてもらいたい。


 まだべとつく体を触っていると、家の入り口から猫の声が聞こえた。顔を上げると、黒猫がこちらを見ていた。なぜだか懐かしい感じがして、寝台から降りて近付こうとすると、猫は踵を返してしまった。触りたかったな、と残念な顔をしていると、入れ替わりに女医が顔を見せた。


「大丈夫?」


 いたずらっぽい顔で、僕を見る。


「怪我、良くなったね」


 言いながら、彼女は僕の足を勢いよく叩く。パン、と乾いた音が家に響いた。


「痛っ……怪我人なんだから、もっと優しくしてくださいよ」


 僕の抗議を聞いているのかいないのか、彼女は鼻歌を歌いながら家から出て行った。


 あの薬のことを尋ねるのを忘れた。

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