揺れる心

 彼女が泣き止んだ後、手を繋いで一緒に帰った。何もしゃべらず、シオンはぎゅっと手を握ったままだった。家までバスを使って来たらしい。家の近くのバス停まで彼女を送っていくことにした。


 バスが来るまで10分。トタン屋根のボロボロのバス停で、ベンチに座ってずっと手を握っていた。暖かい。人の体温、感触ってこんなにも落ち着くものなんだ。感動しているとバスが来た。扉が開き、シオンは手を離れていく。


「今日はありがとう、たっちゃん」

「いいよ。またね」

「うん」


 彼女がほほ笑むと扉が閉まり、バスは行ってしまった。手を振ることもなく、ただシオンを見送った。


 帰る前に、近くの墓地に向かった。山の斜面に作られたそこにある一つの墓石には、飯村家之墓と掘られている。ここに本当のアオイはいる。


 5年前、火葬場で見た彼女の骨を今でも覚えている。焦げ臭い部屋。台の上には骨片と原型を保った頭蓋骨があった。骨壺にみんなが箸でつまんで骨を入れていく。僕はそれがアオイとは認識できなかった。ただの動物の骨くらいにしか見えない。骨が多すぎて骨壺に収まらず、葬儀屋の人がパキパキと骨を砕き無理やり壺に押し込んでいく。最後に頭蓋骨が砕かれ、粉々になった。そこまでは覚えている。それ以降はうまく思いだせない。


 途中のコンビニで買ったモナカをお供えする。


「...もし、君にもう一度会えたら...」


 話すことなんてあまりないだろう。一緒に桜を見たり、団子を食べたり、どんな小さなことでもいい。君を近くで感じていたい。この気持ちを、この傷を埋められるものはあるのだろうか.....。


 駄目だ。


 既にアオイの代わりを探し始めている。嫌だ、そんなの...いやだ。


 やめろ。


 僕は走り出した。忘れたくない。アオイを、彼女を、アオイが崩れていく。泥人形のようにボロボロと砕けていく。


 待って...。止まってくれ...。逝かないでくれ。一人にしないで。


「やめろぉ!」


 大きな衝撃とともに、僕は意識を失った。


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