カツカレー大盛り

 学校を出ると、目の前は商店街だ。田舎というのもあって最近はシャッターの数が増えてきたが、それでも一部の店はいまだに頑張って続いている。この喫茶店もそうだ。


 小さいころからずっとあるこの喫茶店は、町で有名なグルメスポットだ。とにかく量が多い。そしておいしい...高いけど。それでも値段相応だ。いつもお昼は人で込み合っている。


 店の前で時間を確認すると、時刻は16時。ピークを過ぎた喫茶店は空席が目立っている。手前の二人席でシオンは少年漫画を読んでいた。


「来ましたね。待ってました」

「ごめん、お待たせ」


 ニコリと笑って、読んでいた漫画本を閉じた。彼女の目の前に座ると、上着を脱ぐ。メニューはいらない、もう決まっている。


「もう決まった?」

「ここに来たら決まってますからね」


 手を上げて定員を呼んだ。僕たちは注文する。


『カツカレー。大盛りで』


 ここの良いところは量が多いこと。しかし、カツカレーの量は異常である。普通のサイズですら大皿に乗って、大きいヒレカツが丸ごと出てくる。それの大盛り。山のように盛り付けられたカレーとライス。そこに添えられた二枚のヒレカツ。これを食べられるのはフードファイターぐらいだろう。一般人が食べようとしたら、間違いなく途中で吐く。


 ここに来たら絶対それを食べることが僕たち三人の誓いだった。理由は多分、そいつの吐く顔が見たいから。


 カレーは出来上がるまで時間がかかる。それまで、シオンがなぜ引っ越したか聞いてみた。


「なんで急に引っ越したんだ?」

「お父さんの仕事で東京に引っ越すことになったんですよ。それも急に決まったので挨拶に行けなかったんですよね」

「なるほどねぇ」

「そういえばアオイちゃんはどうしたんですか?」

「......」


 言いたくない。気まずいからというのもあるけど、言ってしまったら彼女の死を完全に認めてしまう気がする。そんなの嫌だ。


「...中一の時、遠くに引っ越したよ」

「何処にですか?」

「分からない」

「近所に誰もいないじゃないですか。ずっと一人だったんですか?」

「そうだね」


 彼女の顔が明るくなって、嬉しそうに言った。


「もう大丈夫ですよ!私が帰ってきましたから!」


 胸を張ってどや顔の彼女が微笑ましい。


「あぁ、そうだね」

「それだけですか?反応薄いですねぇ」


 ちょっと残念そうにしている顔も、あの頃の面影を残している。心の隙間が少しだけ埋まった。


 しばらくすると、お目当てのものが出てくる。山だ。胸元まで盛り付けられたそれを目の前に、僕たちは覚悟を決めた。さながら、戦を前にした戦士のように。


『いただきます』


 3時間後、軽くなった財布と、重くなった腹。苦しみながら二人で店を出た。


「じゃあ、気を付けt....うっぷ」

「先輩も...気を付けてくださいね...」


 店を出てそれぞれの方向に歩いていく。シオンは女子寮に住んでいるので、僕とは真逆の方向に歩いて行った。家に帰ったのは8時過ぎ。もちろん親に怒られた、トイレの外から。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る