第2話 悩み

 オレたちは昼食を食べるため、あまり人目につかないであろう校庭に出る。そこは自然が渦巻く静かな場所であり、木陰に涼めるベンチもいくつかあることから、オレのお気に入りの場所でもある。

 オレはベンチに座るなり、早速お弁当を出す。弁当は料理上手な妹の手作りであり、今日は一段と気合いが入っているように思えた。


「兄貴唐揚げ好きでしょ。仕方ないからあたしの分もあげるわ。今日あんまりお腹空いてないし」

「そうか」


 オレは妹から唐揚げを貰い、自分の弁当箱に付け足す。この唐揚げは妹が一から作った自家製で、味も抜群だ。


「兄貴ってば相変わらず美味しそうな顔して食べるわね」

「だって本当にうまいんだもん。いつもありがとうな」

「ど、どういたしまして……」


 オレは素直に感謝の意を伝えると、妹は照れ臭そうに顔を逸らす。褒められるのに慣れていないようで、こうなるとしばらくこちらを向いてくれない。

 ついこの前まではコミュ障気味だったし、こうなるのは仕方ないか。


「それにしてもさ、あのラブレターの差出人は誰だったんだ?」

「どうせ兄貴を揶揄いたいだけの愉快犯でしょ。考えるだけ無駄よ」

「確かにそうかもな」


 オレはポケットにしまっていた手紙を取り出す。


「あれ、兄貴それ捨ててなかったの?」

「ああ、なんか可哀想では」

「へぇ、そんな罠でしかなかったゴミよりあたしのこの美味しい卵焼きの方がよっぽど価値があると思うけど」


 妹はそう言うとラブレターを奪い取り、ビリビリに破ってから近くのゴミ箱に捨てる。


「おい出流、なんてことをするんだ」

「良いのよこれで。どうせ兄貴を嵌めるだけのものなんだし、持っていたところで不快になるだけだよ」

「それはそうだけど」

「もう、あたしがせっかく作ってきたのにそんなの気にしないでよ。食べてくんないの?」

「そ、そういうつもりじゃないぞ」

「じゃあ食べてくれるよね」


 妹はジト目でオレを見つめてくる。オレは悪いとは思いながらも、妹がゴミ箱に捨ててしまった手紙のことはもう済んだことだと忘れることにし、妹お手製の唐揚げや卵焼きを頬張った。

 

「兄貴は純粋で他人を疑わない部分を改めた方が良いんじゃない?」

「そうか?」

「うん、さっきだって損したわけだし、度が過ぎると害でしかないと思う」


 妹は真剣な表情をして語る。オレはその言葉を聞いて、少し考えた。

 今まで散々他人から騙されてきたし、実際酷い目にもあった。しかしそれでも、他人を信じたいと思ってしまうのは、やはりオレがお人好しだからだろうか。

 もし、その相手がオレに好意を抱いてくれている人だったら尚更のことだろう。


「そうだな。できる限り気をつけるようにするよ」


 オレは妹の忠告を可能な限り真摯に受け止めることにした。

 それからオレたちは他愛もない話をしながら昼休みを過ごした。

 放課後になると、オレは教室を出て帰路につく。


「ごめん兄貴、遅くなった」


 入学して一ヶ月、妹はあまり興味が無いのかまだ部活に入っておらず、オレは帰宅部を続けている。なので下校する際には二人で一緒に帰るように約束するのが日課になっていた。


「別に大丈夫だ。それより、最近何か困っていることとかないか? 何でも相談に乗るから遠慮なく言ってくれよ」

「特に無いけど……まあ強いて言えば兄貴がウザいことくらいかな」

「それはちょっと傷つくなぁ……」

「ふん」


 妹はいつものようにオレのお節介を鬱陶しがり、先を歩いていく。

オレはそれを追いかけながら、最近の悩みについて考えていた。

 実はここ一週間ほど前から、妹の様子がおかしいのだ。学校にはちゃんと来ているが、上の空になっていることがしばしばある。

 それにこのように待ち合わせに遅れることもあり、遅刻魔であるオレよりも遅いというのは初めての経験だった。

 オレは妹の後ろ姿を見ながら思う。

 果たしてこれは本当にただの体調不良なのか、と。


「なあ出流、やっぱりどこか具合が悪いんじゃないか?」

「……何言ってんの兄貴? どこも悪くないけど」


 妹には昔のトラウマもあるわけだし、オレの知らないところで悩みを抱えて困っているかもしれない。

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