イケメンだけど、オレの攻略対象はヤンデレ実妹しかいません。

ヤンデレ好きさん

第1話 偽のラブレターと妹

『また虐められたのか?』

『うぇーん!』

『大丈夫、大丈夫だからな』

『うう、ぐすっ……お兄ちゃん、ありがとう!』





「兄貴、いつまで寝てんのよ!」


 昔の夢を見ている最中、オレ、村上颯はベッド蹴り落とされた。

 叩き起こされたことにより意識は覚醒し、思わず上を見上げるとそこには怒り心頭の妹がいた。

 村上出流……小柄な体にツインテールが特徴的で、制服の上にピンク色で手が隠れるくらいぶかぶかのカーディガンを着ている。瞳には青色のコンタクトレンズを付けていて、顔立ちも整っているため学校ではファンクラブがあるらしい。

 そんな妹が今まさに怒っており、予断を許さない。


「あんたね!何時まで寝てるつもり!?」

「もう8時なのか……」


 壁に掛かっている時計を見ると針は8時を指していた。これは遅刻コースであり、オレをリビングへ大きく駆り立てる。

 しかしながら、体が眠気によって上手くコントロールできず、残念なことに足元さえ覚束ない有様である。


「いつまで寝ぼけてんのよ! ほんっと、あたしがいないとダメなんだから!」


 着替えさせられたオレはリビングへ連れて行かれ、朝食兼昼食を食べることになった。メニューは食パン1枚に目玉焼き2つとウィンナーに野菜ジュースにサラダだ。ちなみに全部妹の手作りである。

 妹もオレに合わせてかまだ食べていないようで、オレの隣に座っては目の前にある料理に手をつけ始める。

 彼女の料理はあっさりしていて、ウィンナーもバジル入りで爽やかな風味に仕立てている。


「ごちそうさまでした」


 時間が無いので手早く食べると、出流が空になった食器を妹が洗って汚れを落としていく。その速さは別格であり、あっという間に洗い終わると、タオルで手を拭いた後こちらを向いては言った。


「ほら行くわよ、兄貴」

「ああ」


 玄関に向かって靴を履いている途中でふと思ったことを脳裏に浮かべていた。

 オレの妹、村上出流は昔の頃はすごく甘えん坊であった。虐められていて小学校に居場所が無いのもあったのだろうけど、事あるごとに泣きながらオレのところに走り寄っては抱きついてきていた。

 その時はとても可愛かったのだが、中学に上がった辺りから何故か冷たくなって今ではこんな感じになっている。

 なんにせよ、妹が冷たい理由はわからない。ただ、昔みたいに優しく接してくれる日が来ることを願って今日も学校へ向かうことにする。


「兄貴、さっさと行くわよ」


 現在の妹はオレと話すたびに機嫌を悪くしており、会話が全く続かない。そんな状態のままオレたちは通学路を歩いていく。

 オレたちの住む辺りの街並みは軒並み綺麗に整えられていて、都会の喧騒とは程遠い場所だ。

 そこから電車を一本乗れば、学校はすぐそこだ。電車に乗ってからはスマホを取り出して、SNSを開いては友人とのやり取りをする。


『おーい颯〜元気してるかぁ?』

『まあな』

『そっか、なら良かったぜ!』


 連絡しているこいつはオレの友人の神崎透。高校に入ってから知り合ったやつで、いつも明るくて周りにいる人を楽しませるムードメーカー的な存在でもある。

 この男には色々と世話になっていて、オレが困ったときには相談に乗ってくれる頼れる奴でもある。


『ところでお前、最近どうなんだ?なんかあったのか?』

『別に何もねえよ。どうしてそんなこと言うんだ?』

『だって、最近のお前暗いじゃんか。悩みがあるんだったら言ってくれよ!親友だろ?』

『ありがとよ。でも本当に大丈夫だから気にしないでくれ』

『それなら良いんだけどよぉ……何かあったら俺に相談してくれよな!いつでも話聞くからよ!』

『おう、そんときは頼むわ』

  

「兄貴、随分と楽しそうね」


 隣で同じくスマホを弄っている妹は不満そうな顔をしていた。しかし、すぐに表情を変えて笑顔になる。

 そんな妹を横目に見つつ、オレは返信を打つことにした。


「友達とメッセージで会話してただけだよ」

「ふーん」


 妹は湿った瞳でオレを睨みつけてきた。その目にはどことなく寂しさが映っているような気がするが、深掘りできそうな雰囲気では到底無い。


「兄貴って昔から人気者よね」

「そういうお前だって今じゃ友達がたくさんいるだろ」


 高校に入ってからの妹は今の見た目のようにギャルっぽい積極性やコミュ力を身に付け、瞬く間にクラスの中心的存在になっていたのだ。

 今となっては男子からも女子からも慕われており、オレの自慢の妹である。

 だが、その反面オレに対する態度は冷たくなっていて、正直辛いものがある。

 そうこう考えているうちに、学校の最寄り駅に到着した。改札を抜けて、ホームに出るとそこにはオレたちと同じ制服を着た生徒が沢山いた。

 そんな中で、オレは誰かに見られている視線を感じたのである。じとっとした不快なものだが、思い当たる節は無く姿も見えないことから、次第にそこへの興味は失われていった。


「どうかしたの兄貴?」

「いや、何でもない」


 妹は不思議そうにしていたが、こちらも特に気に留めることもなくそのまま一緒に登校する。


「ん?」


 学校に着くなり下駄箱を開けると、そこになんとオレ宛の手紙が入っていた。手紙にはハート型の封がしてあり、典型的なラブレターのようである。

 中身を確認すると、そこには放課後に体育館の裏に来て欲しいという内容が書かれていた。

 オレはすぐに妹の方へ振り向くと、彼女は不機嫌そうな顔を浮かべていた。


「兄貴がモテるなんて有り得ないわよ」

「確かに、どうせこれも……」


 ラブレターを貰ったのは初めてではない。これまでにも両手の指でも数えるのが億劫になる程貰っていた。それにもかかわらず、オレはこれらにあたり良い印象を抱いていない。

 待ち合わせの場所に行ってもラブレターの主は一向に現れず、懲りずに打ちひしがれては呆れた妹に慰められるパターンが続いている。


「もう行くのやめといたら?」


 オレが騙されていると思い居た堪れないのだろう、妹がいつに無くオレのことを案じている。


「でももし本当だったらオレは彼女のことを裏切ってしまう」


 騙されているのが濃厚ながら、オレはわずかに残された可能性を信じる。


「わかったわよ。後悔しても知らないんだから」


 妹は意固地なオレに呆れた様子で、渋々ながらオレのやり方を認めてくれた。

 昼休みになり、オレは言われた通りに体育館裏へと足を運んだ。だが、オレや妹が懸念した通り、待ち合わせ場所で10分待ってもそれらしい人影は現れず、結局は肩を落とすことになった。


「なんで来ないんだ?」

「兄貴、どうだった?」

「ああ、出流か。やっぱりダメだったよ」


 その代わりと言ってはなんだが、オレを心配した妹が駆け付けてくれた。彼女は動けずにいるオレの元に来るなり、腕を組んできた。


「だからやめとけば良いって言ったのに」

「出流の忠告をちゃんと聞いておけば良かったよ」

「ダメダメな兄貴はあたしが慰めてあげる。まだご飯食べてないよね」

「う、うん、遅れたら大変だし先にこっちの用事を済ませようと思ったんだ」

「あたしも食べてないからさ、どこかで食べよ!」


 そう言うと、妹は組んでいるオレの腕を引っ張った。


「オレじゃなくて友達と食べないのか?」


 騙されると思って身構えていたのもあり、オレの受けた精神ダメージはたかが知れている。わざわざ妹が自分の時間を割いてまでオレを介抱する理由は無い。

 オレとしては妹には自分の時間を大事にしてもらいたい。そう想ってのさっきの言葉である。


「ああ、友達にはちゃんと断っといたから、兄貴はそこのところ気にしなくて良いよ」


 出流は少し申し訳なさそうにしていた。


「お前がそれでいいなら別に構わないけど」

「よしっ!そうと決まれば早く行こっ!!」


 妹はそう言って再びオレの腕を引く。その行動にオレは戸惑いながらも後に続いた。

 廊下を歩いていると、やたらと人の視線が集まる。特に男子サイドは顕著であり、嫉妬の目線を多く感じる。

 妹は校内で一二を争う美少女としてその名を轟かせており、オレもその恩恵を受けているわけだが、同時にその妹がオレにべったりとくっついているものだから男子生徒からの妬み嫉みの視線が痛いのだ。


「なあ、あんまりくっつくなよ。恥ずかしいじゃないか」

「えー?兄妹なんだしこれくらい普通だよ。それに、こうしてないとまた誰かに騙されちゃうかもよ」

「お前なぁ……」


 オレはため息をつくと、諦めることにした。

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