#49 反撃と後始末



 白石常務とNNKに関する調査でも、ようやく尻尾を掴むことが出来た。


 NNKという商社は色々と黒い噂がある様で、同業他社の知り合いに色々聞いて回ると、実際に取引したことがあるメーカーでは、クレーム頻発して取引を停止したという話も聞けた。

 一言で言うと、『価格ばかり高くて質は悪いわ納期守らないわで最悪だった』とのことだった。


 それで俺の方でも実際にNNKに接触してみた。


 あまり大きな声では言えないが、『山霧堂九州営業所の所長の荒川』とは名乗らず、『山霧堂営業部の次長の山名』と名乗った。


 電話で「九州での販売開始に伴い急いで仕入れを増やす必要が出てきた。ウチの白石常務からお宅の指名があったんだけど」と伝えると、「あー山霧堂の白石常務さんね。担当の者が居ますんで代わります」と言って、深山という男が出て来た。


 その深山という担当者に「白石常務から「先回は上手くいかなかったから、今度こそキッチリやる様に」と任せられてます」と伝えると、「そうですか!今度こそお願いしますよ~」と簡単に引っかかってくれた。


 その後も簡単だった。

 この深山という男、頭が軽いというかヤバいことしてるくせに警戒心がなくて、俺の方から「先回の状況をおさらいしたいんで、白石常務に当時のメールのやり取りを転送してもらうようにお願いしたら「あの時は会社のPCに残さない様にスマホでやってて、転送するのが面倒だからNNKの深山さんに送って貰うように頼んでくれ」って言われたんで、当時のメールのやり取りを転送して貰えますか?」と相談すると、「はい!直ぐに送りますね!」と言って、コチラが指定したアドレス(捨てアド)に簡単に転送してくれた。


 当時のやりとりを確認すると、白石常務はウチの購入価格に上乗せを指示しており、上乗せ分の一部をバックマージンとして要求していた。 つまり、白石常務はNNKと取引を結ぶ代わりにNNK側の売り上げの一部を懐に入れようと企てて、原材料高騰での値上げの提案が出されたタイミングでNNKとの取引開始を画策して、値上げに反対して別の仕入先に変更するように指示して、タイミングみてNNKを指名するつもりだったのにその前に俺が速攻で別の商社を紹介して常務の企てが破綻してしまったから、俺を逆恨みしたということだった。


 カミヤマ製菓の立花取締役がヒントをくれた際にピンと来て、実際に調べてみたら笑えるくらい予想通りの話だった。やっぱ常務はドラマとかの見過ぎだな。

 っていうかあのタヌキ、俺の事「業者と手を組んでる」とか言ってたらしいけど、自分がそういうことしてるから、そういう発想が出て来てたんだな。


 当時のメールには具体的な数字とかもハッキリ書かれており、証拠として十分だと判断して、それ以降はNNKの深山は放置して、たまに問い合わせがあっても「もうちょっと待ってくださいね。もう少しでNNKさんで決定しますんで」とか適当な返事をして、のらりくらりとかわした。


 因みに深山との電話の会話も全て録音しておいた。



 これらの証拠のデータはUSBに複数保存して、出すタイミングを見計らうことにした。





 ◇





 そして、馬鹿(山名次長)だけど、やっぱり馬鹿だった。



 カドキューでの売り上げが好調の中、3月頭にカドキューから営業所へ「注文分の一部が納品されていないんだけど、どうなってるの?」とクレームが入り、朝イチで届くはずの物が来ていないとのことだった。


 直ぐに本社営業2課の受注を担当してくれている事務の子に確認させると、受注処理した中の一部がキャンセルされていた。 その事務の子もそれで察して俺が言う前に履歴も確認してくれて「また山名次長でした」と教えてくれた。


 前回、納期変更されて確認するように注意喚起したが、今回はキャンセルだったから他の連中も見逃したのか?

 この際そんなことはもうどうでもいいや。

 舐めやがって。

 こんなセコい手で俺が参るとでも思ったか?

 俺はそんなにヤワじゃねーぞ。

 今度はコチラから追い込みかけてやる。


 履歴画面のスクショを送って貰い、直ぐにTO山名次長&CC管理職と役員全員にメールを発射した。

 メールには1月の時と今回の証拠となる履歴画面のスクショを添付して「これは明らかに社内規定に抵触する業務妨害行為だ。前回は直接顧客に迷惑が掛かることが無かったから大目にみたが、今回は既に客先からクレームが入っている。明日には客先に謝罪に出向く必要があるので本日中に納得できる説明を寄越せ馬鹿」といった内容で送った。


 続けて、TO社長、副社長、専務&CC管理職で「今回の件は客先の信用を失いかねない重大な失態です。本日中に納品するように会社として責任もって対応してください。 在庫が無いとか便の手配が出来ない等の言い訳は通用しないと考えて下さい。 在庫が無ければ直営店から搔き集めて下さい。便が無いなら社用車で社員に運ばせて下さい」とメールで訴えた。

 因みに常務は外した。これ以上妨害されたら取り返しが付かなくなるし、わざわざコチラから情報を与える必要は無いしな。


 2つ目のメールを送信してコチラから社長に電話しようとしたら直ぐに社長の方から直接電話が掛かって来て「荒川、すまん。絶対に何とかするから」と約束してくれたので、俺の方でも直ぐにカドキューの担当者へ「本日中に納品するようにウチの社長へ指示しました。明日事情を説明しに伺います」と連絡を入れた。



 1時間後に再び社長から電話が入り「先ほどキャンセル分の出荷が出来た。次長に関しては山名課長(アイナさん)から懲罰委員会の招集要請があり、そこで次長の平への降格が決まったよ」と報告があった。



 悪質だと判断されたのか経営者一族と言えども一発アウトだったってことかな。

 それに、アイナさんは課長だけど経営者一族だから懲罰委員会のメンバーだったようだ。


 恐らくアイナさんは、次長が逃げたり更に何かをしでかす前に直ぐに動いたのだろう。

 問題発覚の直後に懲罰委員会開いて即日処分とかあまり聞かないが、迷惑かけた客先へ誠意を見せるには有効だと思える。





 ◇





 カドキューには5つの配送センターがあり、ウチの商品はその5つの配送センターそれぞれに定期便で納品をしていた。


 今回の件でキャンセル扱いで納品出来ていなかったのは、その内の1つの熊本配送センターへ納品する予定だった物の一部で、今夜納品されるのを自分の目で確かめるために俺も社用車で向かった。



 夜の21時過ぎにウチの社名ロゴが入った2t車1台が到着し、なんとか本日中の納品を間に合わせることが出来た。


 定期便は運送会社に委託しているが、やはり急な便の手配は無理だったのだろう。 社用車のトラック1台に社員が3名乗って、運転を交代しながらここまでやって来た、ということだった。


 そして驚いたことに、運転してきた社員の一人が作業服を着た副社長だった。


 副社長は開口一番「ウチの馬鹿が迷惑かけて、本当にすまなかった」と俺に頭を下げた。

 副社長も次長(今は平)が馬鹿だって分かってるんだね。


 そして、明日俺がカドキューに謝罪に行くのに同行すると言う。

 トラックには先に帰って貰い、副社長だけこちらに一泊すると言うので、急いでビジネスホテルを取ろうとしたら「荒川君は営業所で寝泊りしてるんだろ?私もソコに泊まらせて欲しい」と言い出した。


「いや、ココまで運転してお疲れでしょう?事務所じゃ疲れ取れないですよ?」


「君だって毎日働いてそこで寝ているんだろ? 私に気を使う必要はないからね」


「いや、そうは言っても・・・」


「妻から君のことは詳しく聞いているよ。 酷い扱いをしてしまったのに、こっちに来ても一人で苦労しながら頑張ってくれてたんだろ? 本社からでは何もしてあげることが出来ずにずっと歯がゆかったんだ。私にも少しは苦労させて欲しいんだ」


「分かりました。でも本当に良いんですか?」


「大丈夫だよ。昔はこんなことはしょっちゅうあったからね。初心に帰ると思えばいい経験になるよ」

 

 まぁ今回の件は、自分の息子の不始末だからな。

 自分でトラック運転して来たのも明日の謝罪に同行するのも、副社長なりに責任感じてのことだろうし、ホテルでゆっくりっていう気にはなれないのかもしれないな。っていうか、30過ぎの次長職(元)がいい年こいて親にケツ拭かせるとか、救いようのない馬鹿だな。



 トラックが帰るのを見送ってから、俺の社用車に副社長を乗せて営業所に戻ることにした。


 途中で健康ランドに寄って二人で汗を流して営業所に戻ると23時を過ぎていた。


 道中や営業所に戻ってからも副社長と色々なことを話した。

 会社のこと。山名家のこと。そしてアイナさんのこと。


 副社長は「アイナに色々指導してくれてありがとうな。あの子は本当に変わったよ。 荒川君が異動した後一人になったから最初は心配だったんだが、今のあの子は『こんな時ワタル君ならどうする?』『ワタル君なら何て言う?』『ワタル君ならこうするはずだ』って口癖のように君の名前を言うんだ。あの子にとって君はお手本なんだよ。親の私ではあの子をここまで導くことは出来なかった。君は本当に凄いよ。 これからも娘のことをよろしく頼むな」という話を事務所のソファーでのび太の頭を撫でながら話してくれた。

 

 大喰い動画の公開や懲罰委員会での素早い動きとか、俺も以前ののび太課長ではイメージしにくいほど頼もしく感じた。 それらが俺をお手本にしての行動だとしたら、やっぱり嬉しい。



 そして俺からも白石常務の件を話し、証拠の入ったUSBを副社長に1つ託した。




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