#44 意外な来訪者
報復人事の辞令以来
「やったるぞぉ」と気合を入れるが、こういう時に限って足を引っ張るヤツが出てくる。
本社へ依頼していたサンプル用の商品とパンフだが、パンフや備品等は予定通りにダンボールで届いたのに、肝心の商品が予定の日になっても届かない。
「どうなっとるんや!」と出荷の担当者に確認すると、「納期は明日に変更になってるよ」と言い出した。慌てて発注をお願いした2課の事務員の子に確認すると、確かに依頼通りに今日の納期で受注処理したのに受注システムの方で納期が変更されてて、その子も心当たりが無いと言う。
要は、俺の業務への妨害目的で誰かがいじったんだな。
PCでの受注システムなんて、いつ誰が何をしたか全部履歴に残るから、勝手に納期変更とかしても誰がやったかすぐ分るのに、バレても平気だと言わんばかりにやってるってことは、俺より上の立場の人間による俺個人へ嫌がらせで間違いない。
その場で事務員の子に確認して貰ったら、案の定、山名次長だったんだけどね。履歴画面のスクショを保存してメールで送って貰って俺も確認したが、間違いない。
馬鹿だな、あいつ。また人のちょっかいかよ。
あんだけ言ってやったのに、まだ解ってないのか。
あ、もしかして、受注システムに履歴残ることすら分かって無いのかも。馬鹿だし。
ただ、白石常務の件もあるのでこの程度のことで騒ぐのは止めておき、とりあえず再発を防止する目的で「指示のない納期変更を細工されるという事案がありましたので、納期変更があった場合は必ず発注元や営業担当へ間違いないかを確認してくださいね」と注意喚起という形の牽制を全社一斉メールで発信しておいた。当然全社一斉だから社長を始め末端社員も含む全員に送られている。 次、同じことやりやがったら「九州営業所と無関係の山名次長がなんで勝手に納期変更しちゃってんの?」と疑惑の目に晒されることだろう。
◇
翌日の朝、無事に商品が届くと早速ご近所回りから始めた。
事務所周辺の住民や地区の自治会長さんを手土産にウチのドラ焼き持って一軒一軒訪ねる。
田舎だからなのかどのお家でもお茶出してくれて、どこ行っても10分以上は喋っていたと思う。 最近一人ぼっちの時間が長すぎたせいか、これはこれでちょっと楽しい。
午前中一杯歩いて回り、午後からは駐車場の草むしりや社用車の洗車をした。
寒い中、建屋の外で作業をしていると、1匹の猫に絡まれた。
全身白くて右耳だけ黒く、野良なのか薄汚れていた。
以前なら野良猫に構ったりしなかったんだけど、やはり一人ぼっちが寂しいのか餌付けして仲良くなろうと思ってしまい、近所のコンビニまで歩いていって猫缶を買って来て、事務所の入り口横で食べさせた。
そしたら
給湯室の流しで全身を洗ってやり、名前は『のび太』と名付けた。
因みにメスだ。
のび太は事務所が気に入った様で、いつも応接セットの一人掛けソファーで体を丸めて寝ている。 俺が出かけている間は事務所に鍵を掛けるので、強引に外へ連れ出して放置し、俺が帰って来たのが分ると、どこからともなく姿を現して、ニャーニャー騒いで餌を強請ってくる。
猫飼うの初めてだけど、普段はドコか気取った様な態度で冷たいのに、餌貰う時とかはあざとく甘えたりして、なんだかアイナさんっぽい。 っていうか、アイナさんが猫っぽいのかもな。
よくアニマルセラピーって言うけど、猫はマジでオススメ。ツンツンされてても「可愛いやつめ」って癒される。
本来の業務である各所への売り込みも本格的に始めた。
成果の方はイマイチだけども、軌道に乗るまでは脇目も振らずに突き進むしかない。
まず目標として、九州営業所の賃貸料や光熱費などの諸経費をペイ出来るだけの売り上げだ。
今期は既に残り3カ月を切ってしまっているが、それでも何とか今期中にそこまで持っていきたい。 コネも宛も無い中、かなり無茶な目標だとは思うが、逆を言えば九州は今まで手付かずの未開地だ。 いずれゴールドラッシュに湧くことを信じて開拓するのが俺の使命だな。
それと、立花取締役からリークされた白石常務に関する情報についても調査を始めた。
まだ確証を得るまでは掴めてないが、立花取締役が言ってたように強力なカードになりそうだ。
そんな熊本での一人ぼっちの戦いに慣れ始めた1月の下旬。
社用車に乗って外回りから戻ると、営業所の入り口に一人の女性が立っていた。
最近はご近所さんとの交流も増えて、たまにおばあちゃんとかがお裾分け持ってきてくれたり、おじさんとかが用も無いのにお茶飲みに来たりすることがあったけど、その女性は見るからにご近所さんでは無く、都会的な小奇麗な風貌だった。
車を事務所前の駐車場に停めてからその女性の様子を伺うと、足元に寄って来たのび太に、しゃがんで手を伸ばしていた。
サングラスを掛けててベージュのコートにヒールの高いロングブーツ。
一瞬アイナさんか!?と思ってしまう程、オシャレで都会的な雰囲気を纏っていた。
車から降りて「すみません、ウチに何か御用でした?」と話しかけると、立ち上がってサングラスを外し「急に押しかけて、ごめんなさい。 お久しぶりね、荒川君」と挨拶された。
その女性は、アイナさんのお母さんのフミナさんだった。
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