#30 最終確認



 アイナさんの今日の装いは、ノースリーブの白いワンピースに生足でヒールのあるサンダルを履いて、夏らしくて爽やかでありつつ肌の露出も多い。

 髪型は、昨日まではストレートだったが、少しだけカットしてボブヘアに変えている。恐らく昨日仕事の後に美容院にでも行ってきたのだろう。


 今日は全体的に落ち着いてて爽やかな女性らしさが溢れている。

 先週の様な浴衣などの和服やオフショルダーの様な流行りのも似合っていたが、やはり美人は何を着てもサマになるんだな、と実感させられるな。


 そして、デートに合わせて美容院に行ったり、毎回デートの度にオシャレに気を使っているのが、俺に見て貰う為だというのが何よりも嬉しい。


 だから、その喜びと感謝を伝えようと素直な気持ちで感想を言ったのだが。



「もう冗談だから、機嫌直して頂戴」


「・・・・別に怒ってませんよ」


「ほら!その顔、絶対機嫌悪いわよね? 機嫌直してくれないとSNSに画像付きで『彼氏怒らせちゃった。機嫌直してくれないよ、びえん』って呟くわよ?」


 アイナさんはそう言うと、スマホを取り出して、運転中の俺の横顔を撮影しだした。


「おいコラやめろ」


 この人、腹痛ナウって本当にツイートしちゃう人だからな。シャレにならん。


 俺は運転中の為、言葉だけでなんとか辞めさせようと注意するのだが、彼女は写したばかりの俺の画像チェックに夢中で聞こえてないようだ。


「運転中のワタル君の横顔、凄く素敵だわ。何て言うのかしら、正しく『彼氏!』って感じがするわね。 この画像引き伸ばしてポスターに出来ないかしら。お部屋に飾りたいわ」


「絶対に辞めて下さいよ!俺が副社長にブチ殺されますから!」


「何よもう、大げさなんだから。うふふ」



 アイナさんを車に乗せてから約15分程経過しただろうか。

 この短い時間によく分かった。


 この人、機嫌が良ければ良いほどドンドンチョーシに乗って、思ってた以上にやりたい放題だ。 さっきからずっとこのチョーシなんだもん。お嬢様無双ハンパ無い。



「はぁ、もう疲れました」


「あら、ダラしないわね。初のお泊りデートだというのに今からそんなことでどうするの? 今夜は寝かせないわよ?」



 赤信号で停車させたので、少しばかり軽蔑の意思を込めたジト目で、シモネタをサラリと言う彼女を見る。


「ほら、アイナお姉様がキスしてあげるから、そんな顔しないの」


 そう言って、右手で俺の肩を掴んで寄せて、唇に軽くキスしてきた。






 ◇






 ウチの会社はお盆は掻き入れ時で、世間がお盆休みの期間は、工場などは休みだが営業部は仕事をしている。 その代わり、お盆が終わると夏期休暇に入れる。


 そして、今回三泊四日の予定でお泊りデートだが、五日目は会長の家に経営者一族である山名家の集まりがあるそうで、その日だけはデートは無しで、六日目以降はお泊り無しで毎日会う予定だ。






 俺の部屋へ行く前に、ドラッグストアとスーパーに寄って、アイナさんが使う日用品や避妊具、食料やお酒なんかを買い込んだ。


 お店の中でもアイナさんは、荷物係の俺の腕を組んでは超ご機嫌で、俺は振り回されっぱなしだった。


 因みに、地元なので会社の同僚たちと遭遇する危険もあるのだが、アイナさんはいつものブランド物のサングラスを掛けていた。

 彼女のサングラスに対する信頼度は相当な物だが、ぶっちゃけサングラス掛けてても滲み出るお嬢様感というか特徴的なスタイルの良さというか歩き方とかで、直ぐに『山名課長』だと気付かれてしまうだろう。

 ただ、特に営業部の他の社員なんかは、彼女がこんなに大はしゃぎするようなキャラだとは思っていないだろうから、気づかれない可能性もあるが。







 俺のマンションに着くと、直ぐに室内のクーラーを点けてから、俺は車に乗せている買って来た食料などを部屋に運び込む作業を始めた。 その間、アイナさんは自分の荷物を寝室代わりの部屋に運び込み、持ってきたメイク類や服などを広げていた。


 俺の方は一通り荷物を運び終えて、食料品なんかも冷蔵庫へ仕舞い終えると、寝室へ様子を見に行った。




 ムフー!ムフー!


 俺のベッドに大の字のうつ伏せになって、激しい呼吸を繰り返すアイナさん。

 マクラの匂いを堪能している最中の様だ。



「何してるんですか?変態ですか?」


 俺が声を掛けると、アイナさんは大の字のポーズのまま顔だけコチラに向けて答えた。


「だって仕方ないでしょ、この部屋入るの初めてなんだもん。 ベッド見たら我慢出来なくなったのよ」



 まぁ、この一週間ずっと我慢して頑張ってたもんな。

 あのクールビューティだと思われてたアイナさんがこんなにもはしゃぐなんて、お泊りデートをよっぽど楽しみにしていたのだろう。


 俺はベッドに腰掛け、うつ伏せのままの彼女の頭を撫でながら、優しく語り掛けた。



「それでどうしますか? 汗かいたのでシャワー浴びてからエッチでもしますか?」


 俺が語り掛けると、アイナさんは体を起こして俺に抱き着いて来た。


「シャワーはダメよ。シャワー浴びたらワタル君の匂いが薄まるじゃない。浴びるならエッチの後にして頂戴。 あ、でも先に食事が良いわね。エッチの最中にお腹鳴ったら恥ずかしいものね」


 そういえば、アイナさんはこういう人だった。



 俺は、アイナさんを抱きしめ返し、左手で優しく背中を撫でる様にして、最終確認を問いかけた。


「アイナさん。俺、もう後悔だけはしたくないので、アイナさんを自分の物にする為なら何だってしますからね? アナタは俺をそんな道に引き摺り込む覚悟、出来てますか? セックスしたらもう引き返すことは出来ませんからね?」


「望むところよ。私だって、アナタを自分の物にする為なら、なんだってするわよ」





 こうして俺たちの夏休みが始まった。





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