#11 フードファイター課長
まずはテスト動画を作ってみよう、ということで製造部にお願いしてウチの主力製品である抹茶ドラ焼きを30個手配した。 因みに、外観検査でハネられた不良品(売り物にならない所謂キズ物)だ。
事務所で撮影すると色々写り込んでしまう為、ミーティングルームでスマホを使っての撮影をすることにした。
初の撮影なので色々手探りではあるけど、事前に簡単な台本を作って、撮影中は課長にはそれを見ながら読み上げて貰う。
「山霧堂の営業企画室がお送りします、山霧堂公式チャンネルです。 本日はテスト動画の撮影をしております。 えーっと、初めまして、営業企画室の課長です。 このチャンネルでは司会進行やリポーターを務めさせて頂きます。 それで、本日は山霧堂の抹茶ドラ焼きの大喰いにチャレンジしたいと思います・・・・」
課長の挨拶とコメントが終わると、俺は大皿に乗せた大量の抹茶ドラ焼きを課長の前に置いた。
「凄いですね。ドラ焼きが山盛りです。コレ全部食べないとダメなのかしら? あ!因みにですが、この山盛りのドラ焼きは、社内の検査で不合格となりました所謂キズ物です。 食品ロスのことも考えて少しでも無駄をなくそうと荒川君が用意してくれました」
「カァァァァット! 個人名出したらダメじゃないっすか!」
「え?私何か言ったかしら?」
「荒川君が用意してくれましたって言ってましたよ!」
「あらヤダごめんなさい。そこは後で編集してカットして頂戴」
「はぁ、じゃあ続けて下さい」
「ごほん。 えーっと、カメラマン兼監督の係長に怒られました。 私のが上司だし年上なのに酷いと思いません?いつも小姑みたいに煩いんですよ~」
またカットしてお説教したいけど、物凄く怒りたいけど、若干ドヤ顔の課長の表情がなんかムカつくけど、のび太のクセにって言ってやりたいけど、面白いから我慢した。
「それでは早速大喰いにチャレンジしたいと思います。 係長、スタートの合図をお願いしますね」
「準備は宜しいですか? では始めて下さい。スターット!」
課長は1つ目を手に取ると、半分に割った。
右手に持った方の半割れをスマホに向けて中身がどうなってるのか見せつつ、左手に持った方の半割れをパクつく。
モグモグさせながら「中には餡がたっぷり詰まってますね。(モグモグ) ウチの餡、粒の食感がしっかりあって美味しいですよね(モグモグ)」と感想を述べる。
食べながら商品のアピールをする様に事前に指導してあったのを、課長は実行してくれてて結構ノリノリだ。
モグモグ食べながらも小豆の産地や地元名産の抹茶の話なんかを交えてて、順調に撮影は進んだ。
しかし15個を過ぎた辺りから無口になりモグモグのペースが落ちた。
まぁ俺だったら3個くらいでギブアップだから、15個は相当頑張った方だろう。
なので俺から確認の声を掛けた。
「ギブアップしますか?」
「・・・まだよ。目標は20よ。 目標達成したら荒、じゃなかった、係長、ご褒美頂戴。そしたら私頑張れるから」
「ご褒美っすか?俺、お金なら無いですよ」
「私、見たい映画があるのよ。一緒に行きましょ」
撮影中に何言ってんだ、このお嬢様は。
「課長命令よ。20個食べきったら映画見に行くわよ!荒川君見てなさい!私の底ヂカラ!」
そこからはペースダウンしてたのがウソの様に2~3分で残り5個を食べきった。
マジですげぇ。課長がこんなに必死なの、初めて見たぞ。
そんなに映画見に行きたいのかよ。
「まだ少し残ってますが、目標の20個完食しました。本日の大喰いチャレンジ、これで終了します。 山霧堂の抹茶ドラ焼き、美味しいですよ。是非よろしくお願いします。 うっぷ」
「ビデオ止めました。課長、ご苦労様です。 お茶どうぞ」
「もう無理。 休憩させて頂戴・・・」
「はい、片付けはしておきますので、ゆっくり休んでて下さい」
撮影後。
流石にこの日は課長もお昼を食べに行く気にはならなかった様で事務所で大人しく休憩していた。 俺の方も残った抹茶ドラ焼きを捨てるわけにも行かずお昼代わりに何個か食べて、残りを事務所の冷蔵庫に仕舞った。
今回撮影したテスト動画だが、後日5分程に編集した物を課長に確認して貰ったら、即不採用になった。 嫁入り前の課長が最後の追い込みで両手に抹茶ドラ焼きを持って鬼気迫る表情で貪る姿が面白かったのに、課長はお気に召さなかった様だ。
そして、課長はこの日、食べる前の山盛りの抹茶ドラ焼きの写真と共に『ウチの抹茶ドラ焼き、動画の企画で20個食べました。しばらく夢に出て来そう』とツイートしていた。
その画像が某猫型ロボットの国民的アニメに出て来そうなドラ焼き山盛り画像だったのが面白かったのか、公式ツイッターで初めて『イイネ』が1000を超えた。
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