#10 腹痛ナウ。トイレから初ツイート



 SNSでの公式アカウントと動画投稿サイトでの宣伝活動に関しての企画は無事に役員会の承認を得られ、早速ツイッターでアカウントを作成した。 ツイッターのアカウント名は『山霧堂営業企画室』にした。


 そして、課長に管理を任せる上での注意点をまとめた課長向けのマニュアルも用意した。

 コンプラ的に問題なる発言はしないようにとか、社外秘情報や画像は出さないようにとか、他社の批判的意見はご法度だとか、個人の私生活を見せるなとか、当たり前のことばかりだけど念のためにだ。


 で、そういった注意点等を色々言い聞かせて早速初ツイートを任せた。


 だが、課長は1時間以上経過してもツイートしていない。


「最初の一言って凄く重要よね! 歴史に残る一言だと思うと緊張してなんて書けば良いのかわからなくなるのよ」と言って、書いては投稿せずに消して書いては投稿せずに消して、を繰り返している。 終いには、「お腹痛くなってきたわ。私、プレッシャーに弱いのよ」と言い出したので、適当に「腹痛ナウ。トイレから初ツイート」とか書いたらウケるんじゃないっすか?って言ったら、トイレに籠って本当にそうツイートしやがった。


 社長をはじめとした役員も見る可能性高いのに、怖い物知らずだな。

 まぁ経営者一族だから、多少怒られても平気か。


 とりあえず課長には「土日以外は毎日最低でも一日1回はツイートして下さいね」とお願いした。





 次に動画投稿サイトの公式チャンネルも早々に開設したいところだが、コチラはまだ投稿出来る動画が無いので、今の所は動画作りの為の企画を練っている段階だった。


 また例のごとく、思いついたアイデアを箇条書きにしていく。


 製造工程の解説

 製菓メーカーが教える小豆の煮方

 自社の製品(ドラ焼きや饅頭など)を手作りに挑戦

 街に出て、山霧堂のことを聞いてみた(意識調査)

 各部門の自社製品に賭ける思いを聞いてみる



 動画って難しいな。

 どんなのがウケるか全く分からないし、企業として品位を落とすような内容は出来ないし、お金も掛けられないし。 営業的観点から言うと、製品のアピールポイントとかに特化した内容にしたくなるけど、そういう動画は見てても面白くないし興味持たれないし話題にもならないだろう。 


 うーん、なんか無いかな・・・・




 あ

 思いついちゃったかも



「課長って食べるの好きですよね? いつもお昼何食べるか考えてそうだし。大喰いに自信ってありますか?」


「急に何かしら? 太ってるって言いたいわけ?人にはコンプライアンスがどうのこうのって小姑みたいに煩いのに、荒川君は上司に向かってセクハラするわけ?」


「違いますよ、一言も太ってるなんて言ってないじゃないですか。どんだけ被害妄想拗らせてるんですか。ってそんなことはどうでも良くて、動画の企画の話ですよ」


「動画? ウチの公式チャンネルの?」


「そうです。 ウチの製品をアピールするのに何か無いかって考えてたら、製品使った大喰い企画を思いつきまして、課長が色々な人に大喰い対決を挑戦していくんです。 社長とか部長とか現場の人とか事務の子とか。たまに取引先とか社外の人とかにもチャレンジするんですよ。 商品のアピールにもなるし面白そうじゃないです?」


「なんで私が挑戦する前提になってるのよ。荒川君がやれば良いじゃない」


「コレは課長の為の企画でもあるんですよ?前に言ったじゃないですか。課長の手腕で成功させるんですよ」


「でも私、動画とか出たく無いわよ。プレッシャーに弱いの知ってるでしょ?」


「だったら変装とかしたらマシになるんじゃないですか? メガネとか髪型とか。もちろん本名も出す必要無いですし」


「名前出さないで大喰いのチャレンジャーって、なんだかパッとしないわよ?」


「そこは『課長』でも『のび太くん』でもなんでもいいですよ。『課長の大喰いチャレンジ5番勝負!最後の対戦者は山霧堂の山名社長!』とか、面白そうっすよね。話題になったりしたら番外編で地元の市長とか有名人とかにアポとって挑戦するとかも」


「荒川君・・・客観的に聞くと、相変わらず発想が面白いし頼もしいなって思うのだけど、あなた、私をイジって楽しんでない? 『のび太くん』って、私のことグータラって言いたいのかしら?」


「ソンナコトナイデスヨー」 


 今日の課長、鋭いぞ。

 俺は口を尖らせ、えなりかずきっぽい口調で否定した。


「ほら!その顔!絶対わたしのこと面白がってる!」


「ソンナコトナイデスヨー」


「キィィィ!」


 課長が悔しそうに文字通り地団太を踏んだと同時に、お昼休憩を知らせるチャイムが鳴った。


 課長はチャイムを聞いた途端、機嫌が一変した。


「今日はお蕎麦食べに行きましょ! ザル蕎麦食べたい気分なのよ!早く行きましょ!」



 ほら、やっぱり課長は食べるのが大好きな人だ。

 俺の考えた大喰い企画、課長ほどの適任者は居ないだろう。








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