#07 営業企画室、始動



 翌日も課長が朝からミーティングをすると言い出した。

 まあ部署名決まっただけで、方針とか目標とかまだ何もないしな。


 で、今日は工事の業者が来るからその対応もしなくてはいけないので、ミーティングルームでは無くデスクでそのまま話し合いをすることに。


 課長はホワイトボードをどっかから引っ張って来て、議題を書き始めた。

 ホワイトボードに向かっている間俺に背を向けてて、腰からタイトスカートに包まれたお尻までの曲線がとても綺麗で、そして黒いストッキングの美脚を肩幅に開いて立つ後ろ姿は、堂々としていてちょっぴりエロくて恰好良い。


 ホント、見た目だけはバリバリのキャリアウーマンって感じなんだよな。見た目だけはね。

 しかし課長って、やっぱり彼氏とか居るのかな。

 こんなに美人でお尻プリプリしてる彼女とか、羨ましいな。


 そんなことを課長のお尻を眺めながら考えていると、課長がコチラを向き直した。


「今日の議題は今後の方針よ。 長期的な目標と今期の目標、それに向けてのある程度具体性のある活動予定なんかも決めたいわね」


「目標に関しては、売上目標とは切り離した方が良さそうですね。 コレやったからこれだけ売上上がりましたよっていうのは、今の我々には荷が重いと思います」


「そうね・・・。 じゃあどういうのを目標に設定するの?」


「例えばですが、会社の知名度を上げることを目的としたイベントを、年間何件行いますとか、地域貢献の取り組みをこれだけ増やします、とか」


「それだと結局、知名度はいくつからいくつに上がったのか?とか、企業イメージがどうよくなったのか?とか聞かれそうね」


「うーん、確かに」


 知名度の数値化なんて専門の調査会社とかに委託でもしないと分らんし、安易に目標に掲げると色々突っ込まれそうだな。



 まてよ・・・


「1年目は、今のウチの会社の認知度とかイメージを調査することに専念したらどうでしょうか?」


「どういうこと?」


「世間一般の知名度とかイメージとかキチンと調べようと思ったら、外部の調査会社にでも委託して調査して貰う必要があると思うんですが、それを営業企画室でやるんですよ。 それで現状のウチの会社の認知度とかイメージを把握することを目標にして、結果こうでしたっていうところまでを今年度中に終わらせるんです。 来期以降は、その認知度やイメージをこう変えるっていうのを目標にして、その為の新製品の方向性や宣伝方法にイベントなんかを企画するっていうことで」


「だいたいわかったんだけど、でも実際に自分たちで調査するって、どうやってするつもりなの?」


「アンケートとか、SNSでのエゴサとか。 直営店でアンケート用紙配布してもらったり、HPで注文してもらった際にアンケートのページに飛ぶようにして回答して貰うようにしたり、あとは協力店にもアンケートをお願いしたり。 アンケート回答者には毎月何名様に何かプレゼントでも出す様にすれば、定期的に集まる様になるんじゃないですか?」


「なるほどね・・・」


「他にも、地元の近隣住民を招待した工場見学とか試食会とかのイベント開いて、そういう場でアンケートをお願いするとか」


「・・・・」


 俺の説明に熱が入ってくると、課長はホワイトボードの前で腕を組んだ姿勢で、徐々に眉間に皺を寄せて以前よく見かけた固い表情になっていた。


 機嫌悪くさせちゃったかな。

 でも、怒らせるような話じゃないと思うけど。


「どうしました? 何か不味かったですか?」


「え?あぁ違うの。  アンケートの話は昨日の資料には無かったけど、以前から考えてたことなの?」


「違いますよ。 今、課長と話してて思いつきました」


「やっぱりそうなのね・・・」


「お気に召さなかったですか?」


「ううん、そんなことないわ。 凄く良いと思うわ」



 打合せを始めて1時間ほど経過していたし、課長の様子から一度頭をリフレッシュしたほうが良いと思い、「少し休憩にしませんか?」と俺の方から声を掛けた。


 すると課長は「そうでした!」といきなり大きな声出して手を叩いて、自分のデスクの上に置いていたバッグからゴソゴソ何かを取り出した。


 四角い箱を取り出してデスクに置くと、「マグカップ買って来たのよ」と言って箱のフタを外した。


 箱の中を覗くと、シンプルなデザインで水色のカップが1つとピンク色のカップが1つ入っていた。 夫婦とか恋人向けのペアなヤツだな。


「水色の方が荒川君用なんだけど、水色嫌いだったりしない?」


「いや、水色が好きとか嫌いとかの問題じゃないっすよね?なんでペアなんですか?お揃いにするなら色も同じで4つとか5つのセットとかにしないと。これじゃあ夫婦とか恋人同士みたいじゃないっすか」


「うふふ、そうなの!二人だけのチームでしょ?これから二人三脚で頑張って行くんだから、こういうのも良いでしょ?」


 俺、同じ職場の同僚として他の人から勘違いとかされない様にマナー的な意味合いで注意してるつもりなんだけど、課長は褒められてると思ってるのか嬉しそうだ。


「早速これでティータイムにしましょ。今から給湯室で煎れて来るから、荒川君は休憩してて頂戴」


 課長はそう言い残して、2つのマグカップ持って鼻歌交じりで嬉しそうに行ってしまった。



 さっきまで機嫌悪そうにしてたのに急にご機嫌になったりして、情緒不安定なのかな。

 まぁ昨日少し聞いた話から察するに、会社ではずっと気を張って働いていた様だし、逆に俺と居るときは気を許してるのかリラックス出来てはいるんだろう。



 5分程で戻って来た課長は、俺の方に脚も体も向けて自分のイスに座りつつ、ニコニコしながら新しいマグカップに自分で煎れたコーヒーを飲んでいた。



 業務上、上司としてはやはり些か不安が拭えない人だが、同じ職場で働く女性としては、可愛らしいし面白い人だとは思う。

 ずっと外回りばかりだったし、会社で仕事するのっていつも夕方帰社してからがほとんどで課長の色々な面は今まで知らなかったけど、年齢も近いし、もっと前から色々話しかけてみれば良かったかな。


 俺は、課長が買ってきてくれたマグカップで課長が煎れてくれたコーヒーを飲みつつ、黒いストッキングに包まれた課長の美脚をチラチラ見ながら、そんなことを考えていた。






 この日のお昼も一緒に食べようと誘われたので、課長がいつも行っているという近所のうどん屋に歩いて行った。 俺も何度か行った事のあるお店なので、特別なにかあるという訳では無かったが、この日も課長が奢ってくれた。


 帰り道に二人で並んで歩きながら「別に上司だからって、気を使って頂く必要ないですからね?俺だって給料貰ってるんですから自分のメシ代くらい払いますよ」と言うと、「今日の会議でも昨日のでもそうだったけど、全部荒川君が頑張ってくれてるんだもん。 私は何も役に立ててないからね・・・お昼ご馳走するくらいしか出来ないんだもん」と寂しそうな顔して話してくれた。


 なるほど。

 今日の俺のアンケートの案を説明してた時に機嫌悪そうな表情に見えたのは、自分の不甲斐なさを感じてしまったからなのか。

 同じチームの相棒なんだから、別にそんなことで気に病む必要ないのに。



「課長。1つ良いですか?」


「うん。何かしら」


「お昼ご馳走するくらいしか出来ないって言いますが、その発想って、恋人とかに何でもかんでも貢いでそうでちょっと怖いっすよ。そういうのは程々にしないと」


 ちょっとした冗談交じりのつもりで指摘すると、課長は立ち止まった。

 振り向いて課長の表情を覗うと、絵に描いた様な「ガーン」って表情でショックを受けていた。


「いや、ジョーダンですよ。そんなに真に受けないで下さいよ」


「むー!」


 今度は睨まれた。

 あ、この人、男に貢いで失敗したことがあるんだな。

 どうやら地雷踏んだ様だ。


 これ以上は危険だから、話題を変えねば。


「そんなことより、コンビニ寄って甘い物でも買って帰りましょう! お昼のお礼に今度は俺が奢りますから!」




 俺の上司は、美人だし見てて可愛らしいところもあるけど、ちょっと面倒臭いところもあるな。







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