第7話求婚?お断りです
私は自分の耳を疑った。
(今、この人は何と……?)
顔を上げると、相変わらずの笑顔でこちらを見ているジークの顔があった。
婚約と言う言葉が聞こえたが、ジークが私に求婚してくる訳が無い。
だって、ジークの好きな人はヒロインのニーナなんだから。
(小説ではいくらイレーナが求婚しても首を縦に振らなかった癖に)
もしかして、何か裏があるのでは?
ニーナの気を引きたくて私を餌にする気なのか?
それとも私を喜ばしといて、最後の最後に絶望の淵に落とす為の口実なのか?
どちらにせよ碌なものじゃない。
私と結婚してもこの人にメリットが何も無い。
むしろデメリットばかりだ。
私の家族は未だに使用人を虐め倒すクズ。
そんな悪行が社交界に知れ渡っているクラウゼ家の娘の私と誰が結婚したいと思うのか。
どんな聖人でも無理だと思う。
だから、私の答えは決まっている。
「お断りします」
「そこまで即決だと、流石の私でも少し落ち込みますよ?」
少しだけなんだ……
どんだけ自分に自信があるんだかこの人は……
とりあえず、無理なものは無理。
断ったんだから、早く帰して。
そう思っている私に対し、ジークは私を帰す素振りは一向にない。
「……あの、早く離してくれませんか?」
「私の求婚を受けて貰えますか?」
「だから、それはお断りしますと──」
「では、離してあげることは出来ませんね」
ニコニコとしながら私の言葉を遮る。
まさか、この人は私がYESと言うまでこのままでいるつもりなのか?
こんな所誰かに見られたら確実に誤解される。
誤解だけならまだいい。
その誤解はジークを狙っている令嬢達の耳にはいり、私は目をつけられる。
そして、陰湿な虐めや嫌がらせが始まる。
これはどの世界にいても変わらない。
(冗談じゃないわ)
私はギュッと拳を握り、ジークに向き合った。
「ジーク様。仮に私と婚約、結婚したとしましょう。しかし、私は
最後の言葉は少し声が小さくなり、俯きながら言った。
「えぇ。確かに私には好いている方がおります」
ジークは少し驚いた顔をしたが、素直に認めた。
その言葉を聞き、私は胸が締め付けられる様だった。
(分かっていた事なのに、何でこんなに胸が痛いの?)
目頭が熱くなり、泣きそうだったが堪えた。
そして、力いっぱいジークを突き飛ばし私から離した。
「好きな方がいるのに求婚するのは私を侮辱しているのと同等!!他を当たって下さい!!」
そう怒鳴り、ジークの執務室を後にした。
もう二度と会うことも無い。そう思いながら……
「はぁ~。私はどの世界にいても幸せにはなれないのかな……」
城を出た所で空を仰ぎながらポツリと呟いた。
呟いたのと同時に頬を涙が伝った……
◇◇◇
ジークの求婚事件から早三ヶ月。
当然と言えば当然だがジークからの連絡は何も無い。
しかし、嬉しい報告もあった。
ヒロインニーナと第二王子の結婚式が決まったのだ。
この時点で私が牢獄に送られていないという事は、私は小説に打ち勝ったのだろうか?
この身体になって一番大変だったのは両親と弟の性格矯正。
初めの一ヶ月は本当に大変だった。
もう一度言おう。本当に、本当に大変だった。
特に弟のラルフは姉を慕ってくれていた分、急に態度が変わって私に疑いの目を向けていたが、それを少しずつ軟化させていくのがどれ程大変だった事か……
でもそのお陰で、ラルフは以前より私を慕うようになった。
それは私を守る
まあ、前の人生一人っ子で常に一人ぼっちだった私からすれば、ラルフはとても可愛い弟だ。
(目に入れても痛くないとはこの事よね)
最近のラルフはよく令嬢から話しかけられる。
性格矯正を施した事で、イカれた伯爵子息から普通の伯爵子息に変化を遂げた。
ラルフは姉の私が言うのも何だが博学多才の上、美男子。
社交の場に出ても、あの性格が災いして誰からも話しかけられる事はなかったが、今は違う。
令嬢に話しかけられても足蹴にせず、笑顔で対応する事が出来るようになった。
その為、お近付きになりたい令嬢や、あわよくば婚約を取り付けたい令嬢がこぞってラルフを取り囲むのだ。
(まあ、内心は何を考えているか分からないけど、表に出なければいいのよ)
そして、斯く言う私も例外ではない。
最近は縁談の話が伯爵家に嫌という程届いてくるが、父様と母様は無理強いはしないと言ってくれている。
(あの二人も大分変わったな)
使用人と主人達の壁は無くなり、屋敷の中は大分穏やかな雰囲気になった。
使用人達も笑顔で仕事が出来ているし。
まあ、まだ完璧とは言えないけれど人並み程度には戻れたと言っていいと思う。
数ヶ月で人並みに程度に戻れたとには私自身も驚きだったけど……
後は無事に結婚式が終われば、この小説は終わる。
後、少し……
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