AM9:31
前回までのあらすじ。
あらすじ終わり。
「……いやいやいや何この状況!?」
困惑しきりの出海少年の腕の中で、少女――学生証の名前は
場所はどことも知れぬ人気のない寺の境内、それも無残に破壊された枯山水のど真ん中である。大人に見つかったらめちゃくちゃ怒られることだけは確かだ。
だいたいなぜ自分は生きているのだろうと出海は思った。たしかに喉笛をすっぱり斬り裂かれたのに。
少女は同じ高校の制服姿、つまり年齢は十六から十八の間で、どう考えてもスーパードクターの類ではない。
それとも死んだと思ったのは勘違いで、それほど深い傷ではなかったのかもしれない。恐るおそる自分の首筋に触れると、そこは今なお傷口がぱっくり開いたままだったので、少年は思わず小さく悲鳴した。
やばい。待って。無理。怖い。わけわかんなすぎて怖い。
「だ……誰か……」
出海は震えながら辺りを見回す。廃寺なのか、ひどく閑散として猫の子一匹いやしない。
身じろぎすると足許で枯山水の残骸がじゃりじゃり鳴って、それが響いて聞こえるくらいに静かだった。
「た、た、頼む起きてぇ……起きてくれよぉッ……俺、ど、どうしたら……!」
半泣きになりながら小柄な少女に縋りつく。刹那はぴくりとも動かず、その身体がだんだんと強張っているような気がする。
ぞっとして少女の口許に耳を寄せたが、呼吸が聞こえなかった。そういえば胸も動いていない。
……死ん、でる?
恐らく出海はそこで耐えかねて叫んだのだろう。愕然としすぎて、自分ではもうわからなかった。
不安と恐怖が臨界点を突き抜け、あふれ出た涙が見知らぬ少女の頬に滴る。それで奇跡が起こるどころか、まるで雨の日の窓ガラスみたいな無感動さで、白い肌の上を生ぬるい絶望が無音で滑り落ちただけだった。
刹那の腕がだらりと垂れて、紺色のセーラーの袖が砂利に転がる。手のひらに妙な模様がある。
首筋の痛みを思い出しつつあったけれど、それどころではなかった。理解不能な異常事態の中心で、死体じみた冷たい身体の少女を抱きかかえた男子高校生は、とにかくこの状況を理解して説明して何とかしてくれる誰かが現れてくれることだけを祈った。
果たして、少年の切望がどこかに通じたか。
一瞬風が吹いたように思う。花のような甘い香りが、したと断言できないほどの幽かさで漂ったかと思うと、真一文字に銀色の閃光が煌めく。
――刃。
ぎくりとしつつも咄嗟に動けず、睫毛が触れるほどの目前に白刃を突きつけられる。
裂けた喉がごくりと鳴った。明らかに、差し出されたそれは剥き出しの澄み切った殺意だった。
「おまえは
背後に立った何者かが、出海にそう問いかけた。
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