真実

「ルリがあの窓から飛び出して、もう2週間だ。

あちこち探し回って、チラシ作って貼ったりして、できる限りのことはしてるけど……何の情報も得られない。

 ——ルリ、ごめん。許してくれ。

 この気持ちを、彼女にどうやって伝えたらいいんだ……?

 とにかく、今はルリの秘密を解くことだけに集中しよう。彼女がいつ帰ってきてもいいように。


 考えろ、思い出せ俺……

 小3、前田優子、『モンストー』……苺ショートとオレンジジュース……

 小3の頃、俺の側に、そういう誰かいなかったか……? 仲良かった女の子とか……

『ショートケーキのキラキラな苺食べる瞬間が一番幸せだよね』……あの言葉を言っていたのは……多分、一緒に遊んだりしてた友達だ。うちでおやつ食べた時の言葉とか。

 ——もしかして、みのりちゃんか?

 いや、違う。

 いつだったか、うちに、数人遊びに来た時……そうだ。確か、誰かが『キラキラな苺食べる瞬間が一番幸せだよね』って言ったんだ。そしたらみのりちゃんが、『イチゴ大好きだもんねーりんちゃんは』って……

 ……りんちゃん……

 そうだ。あの言葉を言っていたのは、『りんちゃん』っていう子だったんだ。


 ああ、だんだん思い出してきた……みのりちゃんとりんちゃんは、家も近くてちょいちょい遊びにきてたじゃんか……で、母さんが苺ショート出す度に、りんちゃんが幸せそうにあの言葉を言ったんだ。だから俺、覚えてたんだな……オレンジジュースもいつもお代わりしてたっけ。

 髪が短くて、ちょっと男の子っぽい元気な子だった……そうそう、俺が『前田優子ちゃん、足がすらっときれいで可愛いよなー』って言ったら、りんちゃんが『えー、タカヤくんエッチ!』って本気でキレたんだっけ……アイドルグループ"台風"のカツジュンが一番好きなんだって、そんなことも言ってた……。


 ——全部、繋がったぞ。

 女子の姿のルリの中には、りんちゃんがいたんだ……間違いない。


 でも、どうしてりんちゃんが、今になってこんなふうに俺のところに……?

 そうだ。母さんにも聞いてみよう。りんちゃんのこと、何か覚えてるかもしれない」



『タカヤ、久しぶりじゃない。急に電話してきて、どうしたの?』

「母さん、いきなりで悪いんだけど、俺が小3の頃に仲良くしてた女の子で、『りんちゃん』って子、覚えてる?」

『ああ、うん、覚えてるわよ。柏木凛ちゃんね。家が近所だったし、平野みのりちゃんとちょいちょいうちに遊びに来てたわね』

「柏木 凛ちゃん……」

『凛ちゃん、苺ショートが大好きだったわよね。可愛い笑顔でいつも幸せそうに食べてたの、よく覚えてる。

 あの頃、凛ちゃんのお母さんに若い恋人できて家出したらしいって噂聞いて、どれほど寂しいだろうと思ってたけど……』

「え……そんなことがあったの?」

『うん。でも、そんなこと感じさせないくらい、明るくて元気で。うちが引っ越すまで、あんたたち3人いつも一緒に遊んでたよね』

「そっか……俺、いろいろ忘れちゃっててさ」

『……でもね』

「何?」

『あんたには言ってなかったけど……凛ちゃん、うちが引っ越した後間もなく、交通事故で亡くなったって……引っ越してすぐにママ友達伝いに聞いて、その時は本当に悲しかった』

「……え……

 交通事故で……亡くなった……?」

『まだ小さいあんたにショック与えたくなくて、その話は伏せていたのよ。 

 お母さんを失っただけでなく、自分自身も突然命を落としてしまうなんて……あの子にだけなぜそんな悲しみが重なるのか……神様を恨みたい気持ちだった』

「…………」





「りんちゃん……そんなにいくつも、辛いことが……

 なのに、亡くなってからこんなに何年も、俺のことを覚えてて……ルリの身体を通して、俺に会いに来てくれたのか?


 そういえば、君は昔も、俺にヤキモチやいてくれていたんだな……前田優子を推してる俺に、あんな風にガチ切れしたりして。

 なのに、俺は君のこと、全然気づいてやれなくて……この前も、初恋の話でよりによってみのりちゃんの話したりして——

 ああ、本当にごめん。

 俺、昔も今も、最低最悪な男だな。

 自分自身にいい加減呆れ果てるよ……」




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