好きな曲

「先週は、変な勢いでいろいろルリに言っちゃったなあ……君に嫉妬されて嬉しいとか、よく考えるとなんか死ぬほど小っ恥ずかしい言葉だよな。ルリの秘密すらまだ全然解けてないのに、こういう感情ばっかり変にグラグラ動いちまって……

 ってか、今の俺とルリの状況って、一体どういう関係なんだ??

 あー、今こんなこと考えても仕方ないだろ! 俺が期限内に彼女の秘密を掴めなければ、彼女は猫に戻っちゃうんだぞ……残り約8ヶ月だからな!

 ルリとの関係とかあれこれ思い悩むのは、彼女の秘密を解いてからだ。今はとにかく猫のルリをたっぷり愛してやることと、女子のルリから何とか秘密を解く鍵をゲットすることだ。しっかりしろ、俺!!

 今夜、また女子のルリに会えるな。今回は秘密の鍵を探ることに集中しなきゃ……うーん、次はどんな手でアプローチしようか? 女の子が好きなものって、スイーツ以外にはなんだろう……」

「にゃあん」

「お、ルリ、昼寝から起きたか?

 その首環、よく似合ってるな。小さい鈴がついてるから、君が歩くとチリチリ小さな音がして、それもすごく可愛いよ」

「うにゃん、にゃん」

「鈴の音……

 音……あ! 音楽はどうだろう?

 俺らくらいの年齢なら、みんな音楽はだいたい興味あるだろ! ルリの好きな音楽のジャンルとか、そういう話から何かヒントが掴めるかもしれないぞ」

「うにゃ、にゃあん」

「ん、膝乗りたいのか?

 今日も買い物行ってくるけど、少しまだ時間あるから……ほら、おいで」

「ゴロゴロ……」





「こんばんは、タカヤ」

「いらっしゃい、ルリ」

「ん……今日は何かBGMかかってる」

「ねえルリ、この曲知ってる? 最近流行ってるだろ、イケメンアイドルグループ"ATM"の新曲」

「あ、最近TVからちょいちょい聴こえてくるよねー。私はあんま好きじゃないけど」

「え、マジか。ルリ、どんなジャンルの音楽が好きなのかなあって知りたくてさ」

「ジャンル……って、そもそもタカヤの観てるTVから流れるのをちょこちょこ齧り聴くだけだし、最近の音楽のことはあんまり知らないよ」

「……え?……『最近の』って……?」

「あっ、あー! でもあれはすごく好き、King Zoo!」

「おー、ルリもか!? 俺もすげー好きなんだよ! めっちゃかっこいいよなKing Zoo! このグループの曲はめちゃくちゃダウンロードしてあるんだ。どれからかけようか? 『飛行船』とか?」

「うんうん、いいね! 私もめっちゃ好き!」

「これ聴いてるとさ、なんかいつもテンションぐいぐい上昇してきて最高だよなー」

「ねえタカヤ、私に合わせなくていいから、お酒とか飲めば? 私はほら、苺ショートとオレンジジュースあれば大満足なんだし」

「えっ……俺、まだ二十歳前だから……来週の誕生日来るまでは酒は飲めないよ」

「は? ちょいちょい飲んでんじゃん、風呂上がりに缶ビール」

「……」

「ふふ、私の前だからっていい子にしてるの? 可愛い」

「……っ、るさい! じゃ遠慮なく飲むからな! 今日はちょうどツマミっぽいスナックも買ってきたしな。プシュッ! はあー、やっぱ美味いわー」

「タカヤ、来週誕生日なんだね。いつ?」

「ん、7月15日。今度の金曜」

「そっか……二十歳、おめでとう」

「ありがとう。成人なんて、なんか全然実感湧かないけどなー」

「もう立派な大人の男だね」

「……ねえ、ルリは?」

「え?」

「俺と同年代に見えるけど……ルリは、今いくつなの?」

「……」

「さっきも、誤魔化したろ。最近の曲は知らない、って言葉。

 ——それってつまり、『昔の曲は知ってる』ってことじゃないのか?

 君は、いつ頃の曲を知ってるの? なぜ昔の曲を知ってるの……?」

「……あ、9分50秒だ」

「え!!?」

「——でも、タカヤがここまで辿り着いたから、大ヒント教えたげる。

 私が昔一番好きだった曲は、アイドルグループ"台風"の『モンストー』だよ。

 それにね、タカヤが昔ACB58のセンターだった前田優子をめちゃくちゃ好きだったのも知ってるんだからね。脚がキレイで可愛いー、とか言っちゃってさ! じゃあね!」 

「…………え…………??」



「みゃあん」

「ルリ、おいで」

「……ゴロゴロ」

「顎の下撫でられるの、好きだよな。

 ……ルリ。君は、一体何者だ……?」


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