初恋
「この4月からルリが女子に変身するようになって、今日は6月最後の土曜日。もう3ヶ月目が終わるな……彼女について、まだはっきりしたことは何も掴めてない。苺ショートとオレンジジュースが好き、ってことくらいで……んー、焦っても仕方ないな。ぶっちゃけた話、毎回理性を保つだけでほぼいっぱいいっぱいだし。変に手が出ないように、歯を食いしばるのみだ。
今日も、ルリの好きな苺ショートは買うことにして、後はオレンジジュースと……甘いものばかりじゃ飽きるし、スナック類にしてみるか。
ってか、今夜は俺の初恋の話の続きだったっけ! 初恋か……うーん、小3の頃のクラスメイトの子に対するあれは、初恋っていうんだろうか? 小4になる直前にオヤジの転勤で引っ越したから、仲良くしてたのは約一年だけだったけど……それでもちゃんと記憶に残ってるってのは、やっぱり好きだったんだろうな……いろいろぼんやりしちゃって細かくは思い出せないけど、いつもポニーテールにしてて、明るくて笑顔が可愛い子だったっけ」
「ぶにゃんっ」
「痛っ! な、なんだよルリいきなり!? 今の甘噛みじゃなくてガチなヤツじゃんか! 見ろ、指赤くなってきたぞ!」
「にゃ、にゃっ」
「あー、ごめんごめん。今ちょっと昔のこと思い出してたからさ、ルリに構ってやれなくて悪かった。
俺、これからちょっと買い物行ってくるな。いい子にしててくれ」
「……にゃあん……」
*
「どうも」
「いらっしゃい、ルリ……え、なんか不機嫌?」
「別に」
「ん、そうか? ならいいけど……ほら、大好物の苺ショート、今日もあるぞ。あとオレンジジュースもな」
「……がぶっ、むしゃっ」
「おい、今日はケーキ手づかみで齧んのかよ! 口の周り真っ白じゃんか!」
「ねえ、早速話してよ。タカヤの初恋の話」
「え、ルリ、何か機嫌悪いし、今日はなんか別の話の方が良くないか? ほら、ここに猫じゃらしもあるぞ」
「猫じゃらしなんかいいから早く!」
「はあ……なんか気が進まないけどなあ……まあいいか。
俺が小3の時に、クラスメイトで隣の席になった子がいたんだ。みのりちゃんっていう子だった。ちっちゃくて、色白くて、いつもポニーテールにしてて。あんまり目立たない子だったけど、お喋りしてると楽しくてさ。
俺、しょっちゅう忘れ物してたんだけど、その度にハサミ貸してもらったり、消しゴム一緒に使ったり……全然嫌な顔しなくて、いつも笑ってくれた。優しかったな。
小4になる前に、俺引っ越したから、仲良くしてたのは一年間くらいなんだけどさ」
「ふうーん。みのりちゃんねえ。ポニテね。優しくて可愛くて、まさに理想の女の子だね」
「……ってか、ルリやっぱ怒ってるよな?」
「怒ってないもん」
「怒ってるだろ! なんでか知らないけど、俺の初恋の話聞きたいって言い出したのは君なんだからな!」
「……」
「お、おい……まさか、泣いてる!?」
「泣いてないもん、バカ!!」
「バカって……でも、キツく言いすぎたなら、ごめん……そんな本気で怒ってるわけじゃないから」
「ううん。悪いのは私。ごめん、タカヤ。
そうだよね。聞きたいって言ったのは私なのに……
何だか、その子のことがすごく羨ましくなってきちゃったの。こんなに長い間、タカヤに覚えててもらえるなんて、なんて幸せな子なんだろうって」
「もうずっと昔の話じゃんか。ルリが言うから記憶から引っ張り出しただけだし」
「……それでも、女子はヤキモチ焼いちゃったりするんだよ。バカみたいに」
「……え……?
ヤキモチって……
っておいルリ、なんでいきなり膝に乗る? 待て待て、体重かけすぎ!! 押し倒すな、苦しいって!」
「ねえタカヤ、いつもみたいに、私の身体優しく撫でてよ。私の気持ちいい所全部触って、ゴロゴロ言わせてよ……!」
「き、気持ちいい所全部!? ゴロゴロ!?
なっなあルリ頼むから……っ! このままじゃ俺ほんとに我慢の限界……」
「——あれ……や、やだっ! 何やってんだろ私!?
きゃっ、もう9分55秒経っちゃったじゃん! ケーキも食べ終わってないし、もぐもぐっ! じゃタカヤ、また来週!!」
「えっ……この状況で放置されるのもそれはそれで地獄の苦しみ……っ!!」
「……にゃあ……」
「……はあ、はあっ……ルリ、俺を殺す気か……?」
「にゃあん……」
「——こっちにおいで。
ほら、膝の上」
「……」
「もう来ないのか。
なあルリ、さっきの『ヤキモチ』って言葉……俺、どう思えばいいんだ……?」
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